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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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第四十四話 納涼祭です(8)



 会長たちがホールで追いかけっこをしている時の事でした。

 私のそばには更科先輩しかおらず、疲れ切っていたので椅子の背もたれに寄りかかり目を閉じていました。

 ひそひそと小声で話すのが聞こえて目を開けると、目の前に気品溢れる人がサングラスをかけたまま立っていました。

 更科先輩をみると無言で頷きます。

「君が陽向ちゃん?」

「あ、はい」

「僕は元泉都門学園高等部生徒会長城田閃理しろたせんりです」

 後輩の私に綺麗にお辞儀をされました。

 ああ、これは。

 父とはタイプが違いますが、この方も色気がダダ漏れ系なんですね。

 ピンク色のオーラが見えそうな雰囲気です。

 私は慌てて立ち上がってお辞儀を返します。

「水崎陽向です」

 じっと私を見て無言でしたが、ふっと口元が和らいでサングラスを外しました。

 視線が合うと、そのまま数秒見つめ合います。

 何でしょうこの既視感。


 白い服って人を選びますよね。胸元にバラなんかさしてありますよ。

 似合っているなぁって感心して見てしまいました。

「うん、合格。ね、抜け出してデートしない?」

「お断りします」


 速攻でお断りさせていただきました。


「断られちゃった、残念。んー、修斗。さらっても良い?」

「ダメです」

「すごく気に入ったんだけど?」

「ダメです」

「んー、それじゃキスしてもいい?」


「「ダメです」」


 更科先輩と一緒に言ってしまいました。


「唇にとは言わないからさ。それがダメなら…んー、抱きしめちゃおうかな」


「「ダメです」」

 速攻で更科先輩とハモリました。


「陽向ちゃん、僕のものになってくれたら良いことたくさん教えてあげるよ?」

 私は深く…深くため息をつきました。

 まるで父を見ているようです。

 若い頃は父もこんな感じだったのではないでしょうか。

 城田先輩が胸をはだけて歩かないことを祈ります。

「可愛い可愛い陽向ちゃん、夏休み中にどこか遊びに行こうよ。二人きりで」

「行きません」

「手強いなぁ、んー。カラオケとかどう? 密室で二人っきり」

「だから行きません」

「ダメ? んー。僕としてはプールか海のデートも捨てがたいんだけど」

「…しつこいですね。行きませんよ」

「修斗ー。やっぱり攫いたい」


 さすがに父はここまでではないですね。


「城田先輩。ダメです」

 更科先輩がそう言った後、城田先輩の後ろに影がさしました。

「しつこい男は嫌われるぞ」

「んー? あれ、晃」

「ったく。いつの間に来たんだ」

「さっき。騒がしかったから今のうちかと思って」

「気づかれない今のうちに帰れ」

「陽向ちゃんを連れてっていいなら」

「ダメに決まっているだろう。見つかったら面倒なのはお前だぞ」

「晃は相変わらずだねぇ。んー」

 よそ事を考えているふりをして、私に抱きつこうとしたので避けて(更科先輩が盾になってくれたこともあって)逃げました。

 追いかけてこられそうだったので走ってその場から離れようとしたのですが、何ぶん城田先輩の方を気にしていましたので前方を見ていませんでした。

 はい。

 何故かまた如月会長とぶつかってしまったのでした。

「きゃっ」

「っ! 水崎!」

 二人で再び前方不注意。

 学習していない二人です。

 今回も如月会長が腕をつかんでくれましたので、転ばずにすみました。

 しかしながら前回と違うこともありました。

 二人とも全力ではありませんが走っていましたので、それなりにぶつかった力が発生します。

 その分強く引かれましたので、現在如月会長に抱きしめられている状況です。

 あれ?


「あっ、静ずるい!」

 

 城田先輩がそう叫んでしまいました。

 その途端「キャーーーーーーッ」という女子の黄色い悲鳴が発生したのです。

 それが私と如月会長になのか、城田先輩になのかわかりませんがホールに大変大きな音で響きわたったのです。

 如月会長が慌てたように離してくれましたが、大勢に見られたことは間違いありません。

「城田さんよ!」

「嘘!」

「本物?」

「やだかっこいい!」

 女子が城田先輩に殺到しました。


 悲鳴が私たちに向けられたものでないことにホッとしましたが、右足に若干の痛みが走ったのに気づきました。

 倒れそうになった時に、どうやら捻ってしまったようです。


 城田先輩が慌てたようにホールを出ていくのを見送って、私は誤魔化しながら椅子まで歩いて何とか座りました。


 もはや精神力体力共にゼロに近いかと思われます。


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