第三十六話 納涼祭です(1)
ハリセンで人を叩くことを推奨するわけではありません。
やっとこの日がきました!
頭から煙が出そうな勢いで頑張った日々が報われる時が来たのです。
ホールの入り口で他校の生徒会役員を泉都門学園高等部生徒会が迎えます。
高等部の校長先生もいますが、純粋に生徒の交流なので最初の挨拶くらいで後はあまり関わりません。
理事長と学園長は参加されません。
ツートップが来ると萎縮しちゃう可能性がありますもんね。
最初に来たのは泉都門とそれほど離れていない公立校「白坂高等学校」の生徒会役員です。最近減ってきてはいますが、ここは学ランとセーラー服の伝統を守っています。
次に来たのが隣町にある私立「松枝学園」の生徒会役員です。こちらは男女共に紺のブレザーです。
次に来たのが一番遠い「友千鳥高等学校」こちらは男子校です。学ランなんですが、生徒会は緋色の学ランです。大変目立ちます。
最後に来たのが友人である彼女が通っている女子校「花時学園」でした。この学園の制服は紅藤色のブレザーなのですが、生徒会長のみ変わっていましてドレスみたいな服を着ているのです。首に校章の模様が入ったチョーカーをしていて、スカートの裾が踝あたりまであるのです。他校へ行くときの正装らしいのですが、この方も目立つことこの上ないですね。
私の友人である彼女はやはりパンツスタイルでした。
バスから降りた彼女は私をみるなり走り寄ってきて抱きつくかと思いきや、私の後ろにいた真琴の陰に隠れた真由ちゃんに抱きつこうとしたので、さっそくハリセンで叩いてみました。
「落ち着けぇい!」
ペシッと音がして彼女が一瞬動きを止めました。
そして振り返ったあと、私に抱きつきました。
「なつかしっ」
半年も立っていないので、懐かしいというほどでもないと思うのですが、まぁ良しとしますか。
更科先輩が動きそうになったので、アイコンタクトで大丈夫だと知らせます。
ぽんぽんと背中を叩くと、我が生徒会と花時生徒会の役員の視線が集まっているのに気づきました。
「初めまして、わたくし花時学園生徒会会長、柳宮朋子です。貴女が水崎陽向さん? 想像していたより小柄ですのね。聞いた話から武闘派かと思っておりました」
どんな話をしたのやら…。恐ろしくて聞けません。
「ようこそ、花時学園の皆さん。中へどうぞ」
如月生徒会長が真面目な顔で言いました。
はい、笑顔はやめておきましょうと言ったのは私です。
何故なら、真面目な顔で言っても、女子の目がハートになりかかるからです。
笑顔で言ったらどんなことになるか。
「陽向、彼女が例の?」
「あ、うん。友達の一宮和香」
中学校の時は「和香様」と呼ばれていました。
「若様」と聞き間違える人が大勢いて、それが彼女のニックネームになっていましたね。
「いきなり抱きつこうとするとは…後で謝罪させますので」
花時の生徒会の、たぶん先輩でしょう。
和香と同じようにパンツスタイルの凛々しい人が、私から引きはがして和香の後ろ襟を掴んで動けないようにしています。
「真由ちゃんへの行動は回避しましたし、私は友人なので大丈夫ですよ。ね、如月会長」
「あ、ああ。とにかく中へ」
上履き持参で来てもらっています。一応忘れてきた人のためにスリッパはありますが、さすが生徒会の面々。忘れてきた人はいないようです。
「あっ、上履き忘れた」
一名いましたね。
「和香…」
「陽向だから、用意してくれてるよね?」
私はため息をつきました。
そして花時生徒会の方々に頭を下げました。
「ほんっっっっっとうに、すみません」
後ろ襟を掴んでいる先輩がカラカラと笑いました。
「噂のハリセンを見れたからいいんじゃないか? なぁ、柳宮」
「こんな和香をどうぞ見捨てないでやってください」
「水崎さんは友達思いでいらっしゃるのね」
「陽向、ひどい」
「毎日迷惑をかけているんじゃないかと心配で」
「まあ多少のことはありますけれど。わたくしたちもそれほど優秀というわけではありませんので、補っていければと思っております」
くぅ…大人な発言。
「それにしても本当にハリセンなんだね。扇子とか考えなかった?」
一番後ろにいたメガネの先輩が言いました。
「一応考えたんですけど。端のところが意外と痛いのでやめました」
上履きに履き替えていた皆さんが動きを止めました。
「意外と痛いって…もしかして自分で試した?」
「はい。色々と」
「一宮 、愛されちゃってるじゃん」
「陽向ーーーーっ」
和香が抱きついてこようとしたので、ハリセンでペシッと叩きました。