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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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第三十五話 涙は誰の武器ですか?



「お騒がせしました。そろそろ帰りますね」



「あ、あぁ。車を呼ぼう。……大丈夫なのか?」

 如月会長が心配そうに言ってくれました。

「はい、大丈夫です。それではまた明日。失礼します」

 先輩方におじぎをした後、真琴と真由ちゃんに手を振って個室を出ました。

 生徒玄関に来ていた車に乗り込み、途中コンビニに寄ってもらってプリンを二個と小さく切られたアップルパイを4つ買いました。

 コンビニなのに一緒に買い物をしてくれるので、運転手さんには大変申し訳なく思っています。


 家の前に着くと、相変わらずドアを開けてくれました。

 車を降りて顔を上げると龍矢さんが外に出て待っていてくれました。

「それでは、また明日。お迎えにあがります」

「はい、よろしくお願いします」

 綺麗なおじぎをして運転手さんは帰って行きました。

 それを見送って龍矢さんを見ると小さく笑っているのがわかりました。

「すっかりお嬢様だな」

「そうでもありませんよ。ところで父は?」

「隅っこで拗ねてるよ」

 やれやれですね。

「アップルパイ買ってきたんです。食べますよね?」

「すまんなぁ陽向」

 私の頭をワシャワシャと撫でてくれました。

「納涼祭が終わるまでは色々とご迷惑をかけるかもしれませんし」

「それでアップルパイか?」

「ふふふ、お嫌いでしたか」

「大好物だな」

「それじゃ、中へ入って食べましょう。父を待たせると泣いちゃいそうなので」

 

 家に入ってリビングに行くと父がまだ、隅にうずくまっていました。


「お父さん」


 私の声に振り向いた父は泣いてはいないものの、明らかに涙目です。



「陽向ーーーーー」



 ガバッと抱きついて痛いくらい抱きしめられました。

 手に持っていた袋と鞄は龍矢さんが持ってくれます。

「お帰り陽向」

 華さんが苦笑しながら言いました。

「我が弟ながら、情けないというかなんというか。ここまで甘えん坊に育っちゃうとは思わなかったわ」

 ぎゅううううううと抱きしめられて、私はため息をつきます。

「お父さん、プリンとアップルパイ買ってきましたから一緒に食べましょう。どちらを先に食べたいですか?」


「ううう、プリン」


「わかりました。逃げないから、ほら」

 買ってきたプリンをリビングのローテーブルに置いてソファに座ろうとしましたら、父が無理矢理膝に乗せます。

 そしてプリンをスプーンで掬って…。

「陽向、あーーーん」



 さすがの私もそれを華さんたちの前できません。

「自分で食べれます」

「陽向……」

「……分かりましたから、泣かないでください。一回だけですよ」

「あーーーん」

 最初の一口だけを食べさせてもらい、後は自分で食べます。

 涙は女の武器だとか言った人がいるようですが、我が家では父の武器なんではないかと最近思っているところです。


 華さんが盛大にため息をついたのが聞こえました。


 まぁこの状態をすぎれば、明日から普通に戻るはずです。




 ちなみに毎回「あーん」で食べさせてもらっているわけではありませんからね。勘違いなさらぬように。



年に数回さびしんぼになる陽向父です

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