第三十話 どうか内密にお願いします
月曜日。
いつも通り真琴と真由ちゃんと学食へ行くと、珍しく和泉先輩がいました。
「あれ、珍しいですね」
いつもは一番先にきて、食べ終えるとすぐに見回りに行っているはずです。
「あぁ、ちょっとこの先の話を俺様も聞きたいんでな」
「この先の話?」
他の役員の方々をみると、一条先輩はいつも通りニコニコ…ん? ちょっと後ろに黒いものが見えますが目の錯覚でしょう。
如月会長は仏頂面です。
東雲先輩が少し困った顔をしていて、更科先輩はいつも通りの無表情でした。
和泉先輩はニヤニヤしています。
「何の話ですか?」
「実は、昨日とあるショッピングモールで君に似た人を見たんだ」
東雲先輩は家の用事でその近くに来ていて、帰りに寄ったのだそうです。
君…と言われたのは、もちろん私ですよね。
「隣に男の人がいたから、声をかけなかったんだけど…」
あぁぁぁぁ。
目撃されてしまったのですか。
聞きたいことは大体わかりました。
その後に来る言葉も。
「あれ、彼氏?」
予想通りすぎて頭が痛いです。
私じゃありません…と言っても無理そうです。
「あれは父です。似てないですけど、父親です」
「「「「「父親!?」」」」」
婦女子の方々が写真を撮っているのに紛れて、遠くから私たちの写真を撮ったそうで、確かに写っていました。
最近の携帯の写真って本当に侮れないですね。拡大しても人物の顔が分かっちゃうくらい綺麗です。
「こ、これが父親!?」
「はい…」
何故だか先輩たちは脱力して俯いています。
和泉先輩だけが「やっぱりな」と言って笑っていました。
「何で手を繋いでるの!?」
これは勘違いするでしょ!? と一条先輩がため息を付きながら言いました。
「まぁ、後輩が変な男に引っかかったんじゃなくて良かったよ」
ホッと息を付きながら更科先輩が笑ったので少し驚きました。
「それにしても、近年稀にみる美形だな」
「一度会ってみたいもんだ」
如月会長と和泉先輩が東雲先輩の携帯画面にでている写真を見ながら言います。
「はぁ、会うのは構わないと思いますけど、学園には連れてこれませんよ?」
小学生以降、父と華さんが私の学校に来たことがありません。
何故なら、私のいる教室までたどり着かないからです。
三者面談ですら、華さんの旦那様に来てもらったくらいですから。
「まぁ、もし来たら騒動になりそうだな」
「呼ぶとしたら、理事長の会議室くらいか? あの建物はギリギリまで車が入れただろう」
「あぁ、車庫みたいに入り口が閉まるからな」
なんですか、その仕様。
あ、真琴と真由ちゃんにまで携帯が回りました。
まぁ、本物ではないので大丈夫だとは思うのですけど。
真琴が苦笑して真由ちゃんに渡すと、真由ちゃんが目を丸くしています。ほんのり頬が赤いのは見なかったことにしましょう。
見なかったです!