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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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番外編3 新入生歓迎会です 後編



「ひな…た」

 小さな声が聞こえて振り返ると、真由ちゃんがいました。

 前髪を三人お揃いのオレンジのヘアピンで留めています。

「あ、真由ちゃん。何か美味しいのあった?」

「う…ん。まこと…が」

 真由ちゃんの視線が少し離れた場所へ移動したので、それを追って見てみると真琴が女子に囲まれているところでした。

「えーと、助けた方がいいかな」

「声」

「声? あぁ、呼べば良いのね?」

 真由ちゃんがコクリと頷きます。


「真琴ー! こっちこっち」


 手を挙げて呼ぶと、真琴がホッとしたように囲まれていた女子に何か言ったあと、こちらへ来ました。

「助かった」

 真琴が持っていたお皿には、ごっちゃりと食べ物が載っています。

「親切は嬉しいんだけど、こう…味が混ざっちゃうと…」

「山になってるね…一人だと大変そうだから、三人で食べよっか」

 真由ちゃんも力強く頷きました。

「はぁ、助かるよ。悪いね、陽向、真由」

 真由ちゃんがクスクス笑いながら山になった料理に箸をのばしました。

 マッシュポテトの上に甘酢あんかけがかかった魚のフライ。さらにパスタが二種類に、私もさっき食べたローストビーフ。キッシュ、ムースその他もろもろ。うん、カオスと化しています。

 奥の方では飴細工の実演が始まったのか歓声が上がっていました。

 一部、イスがあるテーブルがあるので、そこに座って三人で食べていると、東雲先輩が来ました。

「やぁ、凄いの食べてるね」

「親切の山です」

 私が言うと東雲先輩は笑いました。

「これでも飲んで」

 私たち三人にジュースを持ってきてくれました。

 フルーツのジュースでしたが、さっぱりとしていて後味がさらり。

 舌がリセットされるような気分です。

「フレッシュジュースだよ。オカワリいる?」

「いえ、自分で持ってきますから」

「少し離れたところにあるんだ。遠慮しないで。その山と格闘している三人にご褒美」

 さわやかな笑顔とウィンクを残してジュースを取りに行ってしまいました。


 うん、最初は最悪なイメージでしたが、普段は優しい先輩です。

 あの時のことは、後できちんと謝罪してくれましたし。反省もしてくれました。


 ガタガタと音がして振り返ると、更科先輩が私たちのテーブルの残っていたイスに座って、料理の山にフォークを刺します。

「更科先輩」

「手伝う」

 真琴が苦笑気味に笑って言いました。

「助かります、修斗さん」

 飯塚家は一条家と更科家と関わりがあるそうで、昔から知り合いなんだそうです。

 更科先輩は無言で頷いて、黙々と料理の山を減らして行きました。

「あっ、修斗ずるい。ボクだって三人と一緒に食べたいのにー」

「一条先輩。この山をですか?」

 お皿を見せると、三分の一は無くなったとはいえ、カオスが残っています。

「あぁ、うん。ちょっと待ってて」

 そう言って如月会長と東雲先輩を連れてきました。


「さぁ、これをボクたちで片づけましょうね」

「えっ」

「これを!?」

「せっかくの歓迎会です。一年生が楽しめないんじゃ意味ありませんよね?」


 にっこり笑顔の後ろに黒いもやが見えたのは私の見間違えでしょうか。


 三年の先輩二人ともが無言で食べ始めました。

「さ、好きなもの食べに行ってね。これはボクらが責任をもって食べるから」

 ジュースの入ったグラスをそれぞれ持たせて、送り出してくれました。 お陰で私たちはその後おいしい料理を食べれたのですが。

 帰り際にあった先輩たちは、何とも言えない顔をしていました。



 後々、感想を聞いたところ、やはり味はカオスだったそうです。





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