第二十五話 本当は強くないんです
さすがにこの姿のまま家に帰ることはできないので、水泳部のシャワーを借りることにしました。
着替えは東雲先輩がどこからか体操着を借りてきてくれましたし、真琴と真由ちゃんが学園内のお店にいって下着を買ってきてくれました。
シャンプーなどは備え付けのを使って良いとのことでしたので助かります。
「ゆっくり入って。私たちが使うのは部活終わりだから」
水泳部の部長さんがそう言ってくれました。
真琴たちを待たせるのも何なので生徒会室で待っていてくれるようにお願いしました。
ドライヤーもあるんですね。
袋に入った新品のブラシもあって、それを使って良いとのことでした。
髪を乾かして、水泳部の方に丁寧にお礼を言った後、私は生徒会室に向かったのです。
生徒会室のノッカーを叩くと、すぐにドアが開きました。
和泉先輩が開けてくれたようです。
「あれ、ええと。お待たせしました?」
全員がそろってソファに座っていました。
真由ちゃんが泣きそうな顔をしています。
「座れ」
和泉先輩が手前のソファを指しました。
「いえ」
「いいから、座れ」
和泉先輩は私の腕を取ると引っ張ってソファに座らせて、以前のように私の隣に座りました。
「お騒がせしました。あの、すみま…」
「謝るな。謝らなければならないのは、こっちだ」
会長が立ち上がると、何故か全員が立ち上がりました。
「すまない」
和泉先輩までが頭を下げたので、私は慌てました。
「頭を上げてください!」
「俺たちは、何もわかっていなかった。いや理解しようとしなかった。自分勝手に引き入れておいて、軽く考えていたと実感した」
「あの、今回のは自分で誘発させたので、謝ることはないんですよ」
会長は深いため息をつきました。
「ごめんね、陽向ちゃん。助けるとか言っておいてボクも軽く考えていたところはあったとおもう。でも、もうあんなことさせないからね」
「たぶん、しばらくはおとなしくなると思いますけど」
「油断はできない、これからは頻繁に一年のフロアに行くことにする」
和泉先輩がまじめな顔をして言います。
いえ、あの。そんなことしなくても…。
「まだ顔色が悪いぞ。帰る前に少し横になった方がいい。ほら」
そう言って和泉先輩が自分の膝を叩きました。
和泉先輩の膝を枕として使えと?
「いえ、あの大丈夫ですから」
「陽向。本当に休んだ方が良いよ」
「真琴」
「陽向、お願い」
真由ちゃんがウルウルした目で言うので、私は仕方なく頷きました。
「こういう時は、人の温もりがあった方が良いんだ」
和泉先輩は無理矢理自分の膝の上に私の頭を乗せて、頭上で言いました。
確かに、ホッとしたのは事実です。
でもホッとしたところで、気持ちが緩んだのだと思います。
体が震えて嗚咽が漏れました。
私が泣いている間、誰も何も言わず。
和泉先輩が、ずっと私の頭を撫でたり腕をさすってくれたのでした。