第二十四話 そろそろ終わらせます
様子をしばらく見たかったのですが、周りから毎日心配だと言われ続けましたので、そろそろ行動に移そうかと思います。
それが、いつ来るかはわからなかったので、少し時間がかかることになったのですが。
私はいつも持って歩いていた傘を、持ってこないようにして態と無防備にしてみました。
意外と仕掛けてこなかったので、数週間を要しました。
その日。
私は四時間目の授業で黒板いっぱいに書かれた文字や図形を消していて、昼食に少し遅れました。
泉都門学園の黒板は、下に付いているレバーを押すと黒板が下がるようになっているので、上まで綺麗に消せます。
昨日の日直が忘れたのか、いつもは放課後まで大丈夫なゴミ箱がいっぱいになっていたのに
気付いて、今日の日直の男子生徒と一緒に一階にあるゴミ捨て場へと行きました。
そこは室内にあって、ドアを開けて入ると中に四角い大きな容器があるのです。それはゴミを焼く機械と繋がっているのだそうで、分別はしっかりするようにと言われていました。
紙類のゴミは男子が捨ててくれて、私は缶やスチール缶などを別なところへ捨てました。
「後は僕が持って行くよ。水崎さんは昼食に行って」
「ありがとう。それじゃ、お願いね」
この時期、暖かい陽気なので中庭へ出るガラス戸が開いています。
学食へ向かう途中そこを通った時でした。
後ろから突進してくる気配に、思わず中庭へ飛び出してしまいました。反対側には生徒がいたのでぶつかると迷惑がかかると思ったのです。
突進はうまく避けられたのですが、その途端上からバシャッと何かが落ちてきました。
一瞬目を瞑って、冷たい…と感じたあと目を開けました。
髪が顔に張り付いて気持ちが悪いです。
上から笑い声が聞こえました。
「水崎さん!」
同じ一組の生徒が廊下にいて、真っ青になっています。
私はゆっくりと自分の現状を理解しました。
ガラスに自分が写っていましたから。
真っ白な制服が泥水で汚れています。
惨憺たる様子でした。
「……なるほど」
二段階で来ましたか。
一人で納得していると、生徒会の方々がこちらへ走ってくるのが見えました。誰かが知らせたのでしょう。
あぁ、携帯を防水にしておいて正解でした。
でも浸しておくと危ないかもしれないのでポケットから取り出して、軽く操作してみたところ、問題なく動いたのでホッとしました。
「陽向!」
「修斗、タオル!」
更科先輩がどこかへ走っていくのが見えました。
ポタポタと前髪から滴が落ちます。
「あ、汚れますから皆さんこちらへこないでくださいね」
一条先輩がどこかへ電話をかけた後、視線を合わせました。
「陽向ちゃん、水泳部のシャワーを使う許可貰ったから、急いで行って」
一条先輩が言いましたが、私は首を横に振りました。
「今日は放課後までこのままですよ」
「陽向ちゃん!?」
「陽向、どうして!」
「水崎!」
私はニッコリと微笑みます。
そう。
ここで悲惨な顔をしてはだめです。
ニッコリ笑うのです。
そこへ更科先輩が何処からかタオルを数枚持ってきてくれました。
それを受け取って、一応水分を取ります。
顔などを拭く用に濡れたタオルも持ってきてくれていたうえに、上履きも水浸しなのをわかったのかスリッパもありました。
更科先輩は本当、そつがないですね。
一枚目のタオルで全体を拭いた後、顔と手を濡れタオルで拭きました。上履きを脱いで二枚目のタオルで足を拭いてスリッパを履きました。
履いていたストッキングは足の方を引っ張って脱ぐことになりましたけど。
水分は取りましたが泥水だったので、制服は泥で斑模様になっています。
もう一枚タオルを貰って、私はそのまま学食へと足を向けました。
「陽向ちゃん!?」
「ささ、昼食取りましょう。私は個室へ入らないので、先輩方どうぞごゆっくり」
私はその泥で斑模様のまま、学食へ入りました。
今日はがっつりカツが乗ったカレーうどんです。ちなみにカツはトッピングですよ。
泥まみれですから、カレーの汁が飛ぼうが気にしなくていいですね。
普通の席に、タオルを敷いて座りゆっくりと食べます。
生徒会の役員全員が個室に入らず、私の近くに座ったので周りに空間ができていました。
食べ終えて満足したところで、私は立ち上がりました。
何かを察したのか生徒会長がトレーを片づけてくれます。
ありがとうございますと言ってから、私は辺りを見回しました。
「関係のない方にはお見苦しいところをお見せして申し訳なく思います。これからお聞き苦しく多少生意気なことも言いますけれど、まぁ、余興だと思ってみてください。それでは始めさせていただきましょうか」
ニッコリ笑顔を張り付けたまま、私は声を張り上げます。隅々まで聞こえるように。
「今、私のこの状況。よく見て覚えていてくださいね? 私の立場に立ちたいと思っている人は特に。良いですか? 私がやめてあなた方の誰かが、この位置に立つとしましょう。そうなったら、この姿になれること請け合いです。わかっていますか? 逆になれば、自分がこれを受けることになること。それでもなお、羨ましいと言いますか?」
シン…として誰も口をききません。
「最後に。この制服は生徒会の誇りだと小耳に挟みました。さて、どうしましょうね? ご静聴ありがとうございました」
頭を下げた後、私は敷いていたタオルを取って学食を後にしました。
貸していただいたタオルはどうやら水泳部の物で、洗濯してお返ししますと言ったのですが、更科先輩が首を縦に振りませんでした。
「こちらですませておくから、心配しなくていい」
お言葉に甘えることにしまして、一枚だけタオルを持って教室へと戻りました。
放課後まで、私はその斑模様のまま過ごしたのです。
こう言うことは簡単に終わらせることはなかなかできないんだと思いますが
暗いシーンが続くのは嫌なので早めに終わらせたいと思います
物語だとご了承ください