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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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第二十一話 コントではありません



「大丈夫か?」

 如月先輩が心配してくれましたが、返事をする気力がありません。

 うううと唸っていると、笑いながら一条先輩が生徒会室に入ってきました。

「お疲れさま、会長。ボクの言った通りだったでしょう?」

 一条先輩が何か余計なことを言ったのですか!

「あぁ。真っ青だったな。倒れそうになってたし、指先も冷たかった」

「相当な緊張だよね。大丈夫? 陽向ちゃん」


 全然大丈夫じゃありません。


「陽向、大丈夫かい?」

 真琴と真由ちゃんもやってきました。

「・・・い。ひなた」

 真由ちゃんが私に冷たい水をくれます。

 あぁおいしい。

 ん、あれ?

「真由ちゃん、今、私の名前呼んだ?」

 真由ちゃんがコクンと頷きます。

「うわぁぁぁ、嬉しい! お水有り難うね真由ちゃん」

 復活です復活ですよ! 

「あぁ、元気になった。でもまだ顔青いかな」

 東雲先輩がそう言いながら私の顔をのぞき込みました。

「その制服よく似合ってるよ」

「あ、有り難うございます東雲先輩」

「あ、ずるい。ボクが先に言いたかったのに! 陽向ちゃん、本当によく似合ってるよ! 真由ちゃんと二人しか着てない制服だから目立つことこの上ないね!」


 だめ押しきました。


 ガクリと肩を落とすと、更科先輩が優しく肩を叩いてくれます。

 ううう、優しい。

「朝から面白い見せもんだったな!」

 どこから見てたんですか! 和泉先輩。

「如月は王子みたいだったと話題になってるぞ。くくく、シンデレラは誰だと騒ぎになってる」

 シンデレラって・・・。

「内部生からするとみたことない生徒だからな。ガラスの靴でも用意しとくか?」

 ガラスの靴は走りにくそうなのでご遠慮させていただきます。

「うん、予想通りな結果だね。成果は上々かな。これから登校してくる生徒にも広まるだろうし。二、三年生だとこの制服知ってるからすぐに高等部中に生徒会に入った生徒だってわかるよ」

「一条、例の冊子が出るのはいつだ?」

 冊子?

「えーとね。明後日かな」

「冊子って何ですか?」

 思わず聞くと、更科先輩が見本を持ってきてくれました。

 それは生徒会のメンバーの名前や委員会名委員長名。部活名部長名。各顧問名が乗った冊子でした。


 バッチリ私の名前載っちゃってるしー!

 役名 補佐。

 なんですかそれー!


「全部の補佐。良いでしょう」

「ただの雑用じゃないですか!」

「そうとも言うかな」

「無理矢理すぎます!」

「お茶入れたり肩もんだりして、お帰りなさいませご主人様とか言ってくれたらうれしいな」

「それはメイドさんじゃないですか!」

「メイドさんって肩もんでくれるの?」

「知りませんよ! 一条先輩の方が知ってるんじゃないんですか!?」

「『先輩のために淹れたんじゃないんだからねっ』とか言いつつ好みのお茶を入れてくれたりするのもいいな」

「和泉先輩はツンデレが好みですか、そんな情報いりませんよ!っていうか参戦しないでください!」

「『お兄ちゃんに淹れたんじゃないんだからねっ』っていうのありじゃないか?」

「東雲先輩は妹ツンデレ萌えですかっ! そう言えばあの時一年生と一緒でしたねっ! ・・・だからそんな情報いらないですよ!」


 その時小さな笑い声が聞こえました。


 振り向くと真由ちゃんが笑っていたのです。

「ま、真由ちゃん?」

「おもしろい」

 そう言ってまた笑っています。

「真由の笑ってる声久しぶりに聞いたね」

 おなかを抱えてまだ笑っている真由ちゃんを横に、真琴が嬉しそうにほほえみました。

「おなか・・・いたい」

 そう言いつつもまだ笑っています。

 そんなに面白かったですか?

 真由ちゃんの笑いがようやく治まって、少し間が開いた時でした。


「ところでツンデレって何だ?」


「えっ会長知らないんですか?」

「会長、今時ツンデレ知らないの!? ボクびっくり」

「何だ。みんな知ってるのか?」

 会長以外全員が頷きました。

「そ、そうか。常識なのか・・・」

「はい、さっそく陽向ちゃんのお仕事ー!」

「はあ? 別に一条先輩が教えたっていいじゃないですか」

「補佐のお仕事だよ。実演つきでよろしくー!」

「何で実演しなきゃいけないんですか!」

「さすがにボク、お兄ちゃんとか可愛く言えないし」

「いえ、十分じゅうぶんそのままで可愛いと思いますよ」

「一条、さっき言った僕の立場は・・・」

「東雲先輩は可愛く言ったわけじゃないので、ここはやはり陽向ちゃんに可愛らしく妹をやってもらおうかと」

「妹なら真由ちゃんにってあれ? 真由ちゃんは?」

「真琴くんの後ろでしゃがんでるよ」

「真由ちゃんにも見放された!?」

「いや、またおなか抱えて笑うのこらえてるぜ」

「ぼくは無理だからね陽向」

 真琴に困った顔で言われては無理矢理押しつけられません。

「和泉先輩がやってくださいよ!」

「俺様がやったらコントだろうが」

「コ、コント」

 真由ちゃんが再び笑い出してしまいました。

「女のお前がやれよ!」

「そこは男女平等に行きましょうよ!」

「平等の意味が違うだろうが」

「そこはギャップ萌えということで!」

「そんなギャップいらねぇよ。なんでこっちにお鉢がまわってくるんだよ」

「高みの見物しようとするからですよ! それにツンデレ始めたのは先輩じゃないですか」

「そもそも俺様は役員じゃねぇっつの!」

「毎回いるんだから、ほぼ役員じゃないですか。補佐の私よりよっぽど役員ですよ!」


「いや、実演はともかく意味を教えてくれれば・・・」

「会長、そこは黙っておくとこだよ」


 その時、ポンと手を叩く音がしました。

「そろそろ時間」

 更科先輩がボソッと言います。

「あ、本当だ。もう行かないとだめだね」

「そう言えば、何のために集まったんですか?」

「えっと顔見せ?」

 一条先輩が首を傾げながら言いました。

「放課後でも良かったんじゃ・・・」

「放課後は放課後でお仕事があるからね。時間だから教室行こうか」

 ほっとして私は立ち上がりました。

「顔色良くなったみたいで良かった」

 真琴がにっこりと笑って言います。

 そんなに顔色が悪かったんでしょうか。

「ほら真由。教室行くよ」

 真由ちゃんはまだ笑っていました。

 後から聞いた話だと、みなさま方は普段こんな風にならないとのこと。

 あれ、私のせい?


 これからしばらく。

 『ツン』がつく言葉が出てくると真由ちゃんが笑い出すという現象が続きました。


 そして会長は放課後、何故か顔を赤くしながら説明と実演はいらないと言ってくれました。


 誰に何を聞いたのでしょう?




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