第百九十六話 約束
三年生の先輩方が来てから十分ほどして、芹先輩たちが戻ってきました。生徒会室前は風紀委員によって誰もいなくなっていたとのことで、少しほっとします。
芹先輩が私を手招きしたので、頷いて芹先輩の横へと移動しました。
「先輩方。ご卒業おめでとうございます」
「「「「おめでとうございます」」」」
全員で頭を下げると、先輩たちは少し照れくさそうにしながら立ち上がりました。
「卒業式の采配、見事だった。何の憂いもなく卒業できることを嬉しく思う。俺たちは高等部を卒業するが、お前たちの先輩であることは、これからも変わらないと思っている。いつでも相談してくれ」
静先輩がそういうと芹先輩が誇らしげに笑いました。
「そうそう、何しろ同じ学園内にいるからね。ちょっと離れるけど、あまり変わらないよ。これからもよろしく」
貴雅先輩が言うと、静先輩と晃先輩が少し呆れたような顔をしました。
「お前が迷惑をかけそうな予感がするぞ」
「静に同意だな」
「えーーーー」
そして全員の視線が晃先輩に向きました。
「え、いや。俺様は生徒会じゃないし…」
「同じ様なものでしたよ。何か一言」
「む。そうか? そうだな。今年の生徒会は楽しかった」
晃先輩が言うと、静先輩も貴雅先輩も頷きました。
「一緒に過ごせたことは、俺様にとっても僥倖だったと思う。それから、本日今を持って、俺様は俺様を卒業する」
全員の頭の上にハテナマークが点滅しました。
「さすがに大学部に行ってまで、“俺様”はきついと思ってな」
晃先輩の言葉に、静先輩が吹き出しました。
それを皮切りに全員が笑うこととなったのです。
「大学部でも“俺様”貫いてほしかったですよ」
芹先輩が笑いながら言うと、晃先輩は肩をすくめました。
「今のままではいけないと思ってな。その意思表示でもある。様を取るだけだからすぐに慣れるだろう」
ニヤリと笑って晃先輩はソファに座ろうとしました。
「あ! 晃先輩、まだ座らないでください」
「ん?」
「写真。約束した写真撮りましょう」
私が言うと、晃先輩は嬉しそうに笑いました。
「そうだったな」
小さい三脚をデジカメにつけて、机に置いて位置を調整します。
シャッターを押すのは修斗先輩です。
私がやろうと思っていたのですが、修斗先輩の方が素早く動けるということで、お願いしました。
「皆、背が高いから椅子に座ってもらった方が良いかも」
芹先輩が椅子を四脚持ってきました。
三年生の三人と修斗先輩が座ることになります。
「それで、後ろにボク達が立つと」
「芹。なにちゃっかり陽向の隣に立ってるんだ」
「修斗の後ろだっただけですよー」
「陽向、俺さ…おほん、俺の後ろに立て」
「晃先輩、今“俺様”って言い掛けたでしょ」
「うるさいぞ芹。長年の習慣はいきなり直らん」
「四って数字悪くないか?」
「貴雅は数字にこだわる方か? 俺は気にしないが…」
静先輩が隣に座っている貴雅先輩に言います。
まぁ、確かにこのままだと四、四ですね。
「それじゃ、ボクと修斗が前に座ります。これで二、三、三になりますよ」
椅子に座っている三年生の前に二年生が床に座ることで折り合いをつけて、カメラの位置を修正しつつ、場所がようやく決まりました。
修斗先輩が手をあげて、ボタンを押します。
電子音が三回なって、シャッターが切られました。さすが修斗先輩、滑り込んでうまく入りましたよ。
三回撮って、一番良く撮れたのを全員に配ることになりました。
データとして。
私たちにはそのままですが、先輩たちにはデジタル写真立てと共に送りました。
「俺にもか? 悪いな」
デジタル写真たてを受け取った晃先輩は、ふっと笑って移り変わる写真をしばらく眺めていました。
今まであちこちで撮られた写真も入れてあるのです。
喜んでもらえたようで、私たちもほっとしました。