第百九十五話 卒業式です(5)
もうすぐ卒業生が退場する時間ですね。
私たちの前に新聞部がやってきて位置を確認しています。
退場する時の真正面ですから、ここも毎年のことなのでしょう。新聞部の周りにカメラを持った生徒が場所取りしてますけど。風紀委員に姿勢を低くするようにと怒られていました。
「卒業生退場」
今年の退場曲がブラスバンドによって演奏されると、入ってきた順で退場していきます。
なので、静先輩のクラスが最初でした。
何故か皆さんこちらを見るのですけど…カメラ目線ってことでよろしいのでしょうか。
珍しく貴雅先輩が真面目に歩いていたので、少々驚いたのですが、そういえば親御さんが来てますものね。
この後、三年生は一度教室へ戻って、最後のホームルームとなります。
私たちも教室へ戻って短いホームルームを終えた後、三年生を見送ることになっています。
これは自由参加なのですが、花束を渡すチャンスでもあるので、ほとんどの方が来るようです。
そして、第二ボタン争奪戦が繰り広げられる場でもあります。
風紀委員がぴりぴりしているのも頷けるというものです。
皆さんブレザーですので、第二ボタンとは言いますもののボタンだったらどこでも良いらしですよ。
それにしてもボタンを引きちぎる力って結構いりますよね。実に恐ろしきは乙女の力…です。
そして一番問題なのが、特別制服を着たお三方のボタンと言うことになります。
そもそもボタンレスの学ランですので、ボタンがありません。ボタンが隠れるタイプのもあるのですが、先輩たちのはファスナーとなっています。
本当にボタンがないのです。
ならば、どこを狙われるのか。
一番はクラスバッジとなります。
次に狙われるのが、中に来ているシャツのボタンです。しかし風紀委員がおりますので、ここまでやるには組織として動かないとできませんよね。
親衛隊も解散となっていますので、難しいと言われています。
し・か・も。
今年は特に風紀委員が力を入れたそうで、さすがに揉みくちゃにされることは、なさそうですよ。
速水君情報です。
謝恩会は学園敷地内にある施設で行われるそうで、高等部を出てすぐに行われるわけではなく、少し時間をあけてから行われるのだとか。
皆さん花束準備に忙しいようなので、軽く挨拶をした後、生徒会室に向かいました。
仕事をするためではありません。
お手伝いをすると言っても、皆さん首を縦には振らないと思いますし、春休み一杯は休むことを納得しています。
鍵を開けて中へ入ると、さすがに誰もいませんでした。メンバーはまだホールの方にいるのでしょう。
ソファに座ると生徒会室にいることを芹先輩にメールで送りました。
副会長の席に私の物が移動されていたのに気づきました。春休みが終わった後、ここに座っても良いのでしょうか。
目が潤んできて、目をしばたかせていると賑やかな音が近づいて来るのに気づきました。
がちゃっと大きな音がして、三人の人がなだれ込むように入って来た後、ドアが閉められました。
「…お疲れ様です、先輩方」
入ってきたのは、静先輩、貴雅先輩。そして晃先輩です。
走って来たらしく、三人とも息を切らせていました。
慌てて飲み物を用意します。
服を引っ張られた後が見えますね。
「大丈夫ですか?」
「な、何とか」
もらった花束をソファに置いて、貴雅先輩がため息をつきました。
花束以外にも小さな手提げバッグなどもあるようです。
静先輩と晃先輩も同じでした。
「クラスバッジは死守した…」
飲み物を受け取って、三人は一気に飲み干しました。そして背もたれに背中を預けて同じタイミングでため息を吐いたのです。
現在の生徒会室前廊下を見るのが少し怖いです。