第百九十四話 卒業式です(4)
ホールの入り口から入って左側にブラスバンドがいまして、入場曲を奏でています。
一組からの入場なので静先輩のクラスですが、静先輩は背が高いので一組でも後ろの方です。
貴雅先輩は三組で、晃先輩は七組なので後ろの方ですね。
全卒業生が入り終わるまで立ったままというのも辛いものがあると思うのですが、こうなると八組とかの方が良いのでしょうか。
外で待っている時間が長い点で、トントンなのですかね?
ちなみに今日は晴れなので大丈夫でしたが、当日が雨の場合は、卒業生が待つ場所にテントが張られるのだそうです。横の幕付きのですよ。
しかも全生徒バス移動になるそうです。
晴れて良かったですよね、本当。
八組の最後の生徒が席の前に立って、ようやく司会の先生が口を開きました。
「着席」
ザッと音がして卒業生が着席しました。
静先輩と貴雅先輩は生徒会特別制服を着ているので、どこにいるか一目でわかりますね。
卒業証書を受け取るところでは、新聞部と学園側が用意した写真屋さんのみ、撮ることが暗黙の了解とされているらしく静かなものだったのですが、来賓の方のお言葉や理事長、高等部校長のお話が終わって在校生代表で芹先輩が壇上に上がった途端、観客席からシャッター音が聞こえ始めました。
一眼レフ持ってる人がいますけど…良いんですか?
大きい鞄にレンズが入ってるのが見えたのですけど、それ何て言うカメラです?
本格的すぎて怖いです、皆さんどこに隠し持ってたのでしょう。
フラッシュの中、芹先輩がにっこり笑って卒業生を見渡したのが見えました。
「送辞」
シャッター音の嵐です。
パシャパシャカショカショ、ピロリン。
「在校生代表、一条芹」
と芹先輩が言い終わるまでに、私の耳が変になりました。
壇上から芹先輩が去った今も、耳でシャッター音が聞こえる様です。
「大丈夫?」
具合が悪く見えたのでしょうか、委員長が近づいてきて私に尋ねます。
「大丈夫ですけど、耳が変になりそうなのだけど…」
「如月元会長が壇上に上がったら、さっきの比じゃないよ。耳栓つかう?」
そんなものが用意されてるのですか。
あぁ、でも耳栓をしてしまうと静先輩の答辞が聞けません。
私は涙をのんで断りました。
委員長の言葉通り。
シャッター音が激しくなったので壇上を見ると、丁度静先輩が礼をしているところでした。
「答辞」
二年生の席で悶えている生徒がいるのが見えました。
キャーと悲鳴を上げたいのを堪えているようです。
そこは空気を読むのですね。
でも、保護者の方に一部見えているかと思われます。
三脚を持って私たちのクラスの前に来た二年生がいましたが、一年生からの非難に風紀委員が出てくる始末です。
それでも大声を出さない生徒たち。
徹底するのは良いのですけど、一部間違ってません?
隣で副委員長が満足げに自分で撮った写真を眺めていました。
そしてそれを、連れて行かれそうになっている二年生に見せました。
それを見た二年生が、はっとして両手を降ります。
副委員長がニンマリ笑って手でオーケーのサインを出しました。
知り合いですか? 知り合いですよね?
知り合いじゃないとさっきみたいなコンタクトできませんよね? ね?
多少の恐怖を感じつつ、連れられていく二年生が観客席からいなくなると同時に、静先輩の答辞が終わってしまいました。
「卒業生代表、如月静」
シャッター音の嵐が来るかと思いきや、あちこちで泣き出す生徒が続出。
すみません。
本当にすみませんが、面倒くさいと思った私はダメなのでしょうか。
さっきまでの切ない気分がどっかへ行ってしまいましたよ。
ここでため息をつくと、また委員長が飛んできそうだったので、ぐっと堪えて壇上から去る静先輩を見ていました。
ちらっと目が合ったような気がしたのは、私の見間違いですよね。
在校生席に現在、特別制服を着ているのは陽向だけなので、目立ちます。
しかも正面。壇上から見ると大変目立ってますw