第百九十二話 卒業式です(2)
一組の生徒がワラワラと廊下に出てきて、速水君と私を引き離そうとしました。
「ち、違うの、皆が心配してくれたって教えてくれて…それで。あの、嬉しくて泣きましたっ!」
廊下で、思いっきり大声を出したので注目されました。
うん、恥ずかしい。
「なんだー、良かった。悲しい涙じゃないなら、良いんだ。それから速水君。病み上がりの女生徒と立ったまま話すとは何事かね?」
副委員長がニヤリと笑って速水君を見上げます。
「あ、ごめん」
「大丈夫よ?」
「はいはい、もうすぐホームルームの時間だよ。教室に戻りましょう」
時計をみると一分前でした。
「あ、本当。それじゃ、速水君ありがとう」
「具合が悪くなったら言ってね」
「うん」
頷いて教室に入ろうとしましたら、副委員長と目が合いました。
「何で、にやにや笑ってるの?」
「いやー、青春だなーと思って」
「青春?」
「うん。いいのいいの」
背中を押されて自分の席に戻ります。
教室のあちこちには花束が置かれていました。
卒業式後に三年生に渡すものでしょう。
中にはギリギリまでバケツに入れてあるものもありました。
「ガーベラ綺麗ね」
「部活の先輩に一輪ずつ渡すの」
原田さんが透明なフィルムに包まれた七個のガーベラを机の上に置いています。
原田さんが入ってる同好会は彼女以外全員三年生で、卒業してしまうと廃部の危機なのですが、一年生をたくさん入れるのだと張り切っておられます。
こうして花束のある風景を見ていると、卒業式なんだなとあらためてヒシヒシと感じてしまうわけで。
思わずため息が出て、周りの人に心配されてしまいました。
数日前に卒業式の最後のリハーサルがあったそうなのですが、それには参加できなかったのでどんな風に行われるかを知りません。
流れは事前に見せてもらった時間表でわかってはいますが、ドキドキしますね。
そろそろ来賓の方々が控室に入っている頃でしょうか。
真琴がそちらの仕事に行っているので、現在教室にはいません。
少し寂しく思いながらも、近づいてくる時間に何とも言えない感情が出てきて目を瞑りました。
泉都門学園の卒業式は、卒業生と保護者がホールに。在校生は二階の二階席…通称観客席に座ります。
二階が若干狭くなりますが、階段に臨時の椅子を持ち出して座ることになるのです。
今日の注意事項を西福先生が話した後、いよいよホールへと移動しました。
まだ少し早いと思われる時間ですが、何しろホールまでの距離が少しありますし、一部生徒は花束などを持っているので普段より時間がかかります。
部室で約束している生徒もいるようですが、たいていはすぐに謝恩会などがありますので、そちらへと卒業生は行ってしまいます。
ゆっくりとホールへ向かって、空を見上げながら歩いていたら、委員長が近づいてきて腕を取られました。
「あの、一人で歩けるから…」
「ぼんやり上向いて歩いてたからさ」
「晴れて良かったなと思っていただけなんだけれど」
「目を離すと転びそう」
病弱認定されてしまったようです。