第百八十六話 アルバムの写真side学
短めです
この間の話で、陽向の心の澱は無くなったのだと思っていた。
血が繋がっていないかもしれないという事をずっと胸に抱えてきた陽向。
それさえ取り除けば、心は晴れるのだと。
毎日、病室で陽向の手を握る。
ちょっとでも離そうとすると泣き出すのだ。
陽向は幼い頃から辛いことがあっても笑う子供だった。
だけど、今、思い返せば僕の言葉のせいだったのかもしれない。
“陽向の笑顔を見るだけで元気が出るんだ”
陽向が眠ってから自宅に帰る。
そして陽向の小学生の時のアルバムを出してきてリビングで開いた。
一枚一枚ゆっくりと見て、そして。
家族で写っている写真の少なさに、愕然とする。
一緒に写っている写真はどれも室内だ。
リビングにある電話の横に置いてある妻の写真を見て、涙がこぼれた。
愛する人どころか愛する娘も守れないのか。
「学」
「……姉さん」
コトリとテーブルにコーヒーが入ったマグカップが置かれた。
「それ、陽向が小学生の時の?」
「うん…」
幼稚園の頃は女性スタッフしかいないところに通わせていたので、姉に送り迎えを頼んでいた。
写真も姉と陽向のが多い。
そして、ここでも僕と陽向の写真は少ない。
小学生に上がると顕著だった。
陽向は二度転校を余儀なくされている。
原因は様々だったが、そのために僕も姉も陽向の学校へと行けなくなってしまった。
姉と結婚した龍矢に頼んで、その頃の写真には陽向と龍矢が写っている。
だから、小学校の卒業式も龍矢と陽向のツーショットだ。
中学の入学式だけ姉と龍矢が二人で行った。
女子校だからと思ったのだが、少し問題があったらしく、結局行事すべて龍矢に行ってもらうことになってしまった。
そのどれも、陽向は文句一つ言わなかった。
あの時、もっと話をするべきだったのだろう。
今更言ったところでどうにもならないことだが。
コーヒーを一口飲んで深いため息が漏れた。
「姉さん」
「何?」
「有休が明日で終わる」
「……ええ」
「仕事に…行かなきゃならない」
こんな時に。
大事な娘が大変な時に。
「また僕は…陽向に我慢させなきゃならないのか」
自分の容姿をこれほど呪ったことなどない。
どうして。
どうして。
どうして!
守りたいのに。
元凶は僕。
何て言う皮肉。
「龍矢の方がよっぽど父親らしい」
思わず呟くと、姉は僕の隣に座って手を握ってくれた。
「それでも、学が陽向の父親だよ」
「……ああ」
あの時「大好きです、お父さん」と言った陽向の泣き笑いしていた顔を思い浮かべて。
これから僕がすべき事を、考えた。