第百八十五話 お見舞いside晃
その日遅くに学さんから電話があった。
陽向が小学生の時に戻っていると。
小学一年生だと言ったと。
目眩がしてベッドに倒れ込んだ。
お見舞いに行きたいと告げると、来ても誰だかわかってもらえないだろうと言われた。
それを生徒会の皆にも伝えて欲しいと。
このまま陽向が元に戻らないようなら、学園を辞めなくてはならないので、理事長か校長と話をしたいと言われた。
「伝えます…」
返せた言葉はそれだけだ。
今、何を他に言えるというんだ。
電話を切ってから、まんじりとせず朝を迎え。部屋をでて、リビングのソファに座って父を待っていた。
父に話をした後、家を出て花屋へ向かう。
話し合いをした結果、昼頃になっていた。
ピンク色を多めに頼んで包んでもらうと、重い足取りで病院へと向かう。
陽向の部屋は個室で、面会謝絶の札がかかっていたが看護師に話をして学さんを呼んでもらおうと思ったのだが、出てきたのは華さんだった。
「華さん…」
「学は手が離せないの。どうぞ」
「……失礼します」
「陽向…」
華さんに名前を呼ばれて、どうやら本を読んでいたらしいが、顔を上げてこちらを見た。
ベッドの横で、椅子に座った学さんが陽向の手を握っている。
こちらを見て小さく頷いた。
「ハナさん」
不思議そうに見て、首を傾げる。
「そのお兄ちゃん、だれ?」
堪えた。
だが、ぐっと堪えて花束を握りしめ陽向に近づいた。
「こんにちは、俺さ…。僕は和泉晃といいます」
俺様と言い掛けて、慌てて言い直す。
「いずみあきら?」
「そう」
「ふーん」
やはり覚えていない。
「これ、陽向にお見舞い」
「わぁ、可愛い! ありがとうお兄ちゃん」
屈託のない笑顔を向けられて息が苦しくなった。
「花瓶に活けてくるわね」
「ありがとうハナさん」
いつもの陽向なら、ありがとうございますと言うだろう。
「学さん、あの。お話したいことがあるのですが」
「すまないが、午後九時以降でもかまわないだろうか」
「はい。父も話したいと言っていたので、我が家に来ていただけますか。迎えをこちらに…」
「いや、少々寄らなくてはならないところがあるので、自分で伺うよ」
「…わかりました」
唇を噛みしめて立っていると陽向が不安そうな顔をして学さんを見つめる。
「お父さん、かえっちゃうの?」
「大丈夫、そばにいるから」
「て、つないでてくれる?」
「うん、ずっと繋いでるよ」
安心したのか、にこっと笑う。
華さんが花を活けた花瓶を持ってきて、陽向の近くに飾った。
「ねーねー、ハナさん、プリン。プリンだして」
「何味?」
「んーとね。イチゴプリン、それでね。マッチャのをお兄ちゃんに」
「抹茶をあげるの?」
「うん、お花のおれい」
華さんが抹茶プリンを出してくれる。
「ありがとう、陽向」
陽向にお礼を言った後、華さんに頭を下げて受け取った。
「お父さん、わたし、いつおうちにかえれるの?」
「まだ一日だよ、陽向」
「だって、つまんない」
「まだ検査があるからね」
「げんきだよ」
陽向の言葉に華さんが、ぐっと何かを堪える。
「お医者さんが良いですよって言ったら、帰れるからね」
「うん」
医師が検診に来たのをきっかけに、挨拶をして病室を出た。
病院を出てから携帯を見ると、静からの着信があったようで留守番電話にメッセージが入っていた。
折り返しかけて、明日生徒会室で話す旨を伝える。
今日でも良かったのかもしれないが、今夜の学さんとの話し合いのこともある。
自宅の番号を出して、父に電話をかけた。