第百八十一話 黄昏の放課後です
シリアスです
生徒会室に向かうと、静先輩と貴雅先輩がすでにいらっしゃいました。
三人でチョコレートを渡しましたが、すでにたくさんのチョコレートを袋に一杯もらっていたようです。
「さすがと言いますか…」
「言っておくが、芹たちも同じだからな」
「そうなんですか?」
「お前たちに見せないようにしているだけだ」
そういえば、まだ来ていないようです。
「これでももらわない様にしたんだが、さすがに同じクラスの女子のは断れないしな」
同じクラスの女子からだけで、この数ですか。
「たぶん帰りにもくれる人がいるかも」
貴雅先輩が嬉しそうに言いますが。
そんなにもらって、全部食べるのでしょうか。
ちらっと生徒会室にかかっている時計を見ますと、もうすぐ約束の時間です。
全ての授業が終わった後、連絡してみたら了承のメールが届きましたので来てくれるのだと思います。
「あの…約束がありますので、これで失礼します」
私が言うと、そこにいた全員が何故か緊張した顔で頷きました。
や、やめてくださいよ。余計に緊張してしまうじゃないですか。
礼をして生徒会室をでますと、修斗先輩が立っていました。
「修斗先輩…」
「校内か?」
「はい」
「送ろう」
「いえ…」
「送る」
「……はい」
何も言わずに、バレンタインでざわめいている廊下を抜けて階段を上りました。
屋上へと続く階段前で、修斗先輩が立ち止まります。
「ここにいる」
「はい」
ここで他の人が来ないようにしてくれるのでしょう。
頷いて、私はゆっくりと階段を上りました。
屋上のドアを開けると晃先輩が立っているのが見えました。
音で気づいたようでこちらをゆっくりと振り返ります。
「陽向」
「…お待たせしました」
大分、日が長くなってきたとはいえ、この時間は黄昏時です。
はっきりと顔が見えないことは、少しだけ緊張を和らげる効果がありました。
しばらくの沈黙の後、晃先輩が小さく笑って沈んでいく太陽を眺めながら口を開きました。
「…答えを…聞かせてくれるか」
「はい」
唾を飲み込んでから晃先輩の顔を見ました。
「晃先輩…」
晃先輩はじっと私を見つめます。
「先輩…私は先輩とおつき合いできません」
先輩は視線を逸らさず、ただ黙って私を見ていました。
「これ以上何を言っても、どうしようも無いことだとわかっています。でも、これだけは言わせてください。好きなんです。でも、違うんです!」
「陽向」
「晃先輩と同じ好きじゃない」
「もういい」
「だって、だって先輩」
「もういい陽向」
「だって!」
「陽向!」
晃先輩は私の両肩を掴んで軽く揺さぶりました。
「落ち着け」
「ずるい言い方ですよね、自分でもわかってます」
「それでいい、今の陽向の気持ちがわかった。だからそれでいい」
晃先輩は優しい…優しすぎます。
傷つけているのに、何でもないような顔をして笑ってくれる。
「まだすべての壁を壊せないんだな」
「先輩」
「だが第一関門くらいは突破できたろう? 次も壊してやるから覚悟しろ」
「せ、先輩?」
「約束したろう? 何があっても会いに行くと」
「私は晃先輩に好いてもらえるような人間じゃありません。どんなに好きだと言われても、きっとこれから先、誰とも付き合わないと思います」
「決めつけるな。未来は何も決まっていない。陽向が会いに来るなというのならそうするが?」
「私は、きっぱりと断って終わらせるべきことを、終わらせられないのです。優柔不断にも限度がありますでしょう」
晃先輩は私をじっと見てため息をつきました。
「私の優しさなんて、薄っぺらなんですよ」
誰かの為、誰かの為、誰かの為。
危険を回避できるように。
笑って過ごせるように。
誰にも傷ついて欲しくないのは、自分の心をかき乱さない為。
「もう嫌だ。どうして誰も私を穏やかにさせてくれないの! もう、もう嫌あ」
「陽向!」
全ての結果は自分のせい。
そんな風に誰かが言ったのを聞いたことがあります。
全て自分のせい?
だったら私は!
「だめだ!」
「嫌、放して!」
もう嫌です。
「私は…疲れま…した」
「陽向!」
もう何も考えたくない。
な…にも。
陽向の中で押さえこんでいた物が
決壊しました