第百七十五話 捕獲作戦会議
ノリがいいと言いますか、応援団の皆さんはあっさりと手伝うことを了承してくれました。
怪我をしないように計画を立てなければいけませんね。
拘束しようと思っていたのですが、甲田先輩どころか晃先輩や修斗先輩にも止められてしまいました。
そうですか、まぁ。今まで実際にやったことはないので、確実性にかけますものね。
「えーとね。色々と言いたいことはあるけど。よっぽどの事が無い限りはやめた方が良いと思う」
芹先輩にまで言われてしまいました。
ダメですか…そうですか。
頭の中で除外して考え直さなくてはなりません。
「そんな技術覚える必要あったの?」
真由ちゃんが不思議そうに言ったので、頷きました。
「今まで使う場面はありませんでしたけどねぇ。ギリギリ危ないところまで行った時もあったので」
「危ない…とか」
「えーとですね。父のストーカーさんに刃物を向けられたりとか」
「えっ」
「以前言いませんでしたっけ」
「聞いたような気もするけど…」
修斗先輩の横で甲田先輩が目を見開いています。
現在、計画を立てるために生徒会室に甲田先輩をお呼びしております。
ここなら話を聞かれる心配もありませんので。
「色々防犯のグッズは持っていたのですけど、さすがにとっさに出そうとすると時間がかかるのです。制服のポケットにも限界がありますし、相手はちょっと危ない方でしたので、大きな音にも怯まない可能性がありました」
逆に興奮して刺される可能性があったのです。
「それで、ですね。色々策を講じまして。鞄の強度とロープだったわけです」
「鞄はわかるとして、ロープは拘束するため?」
「それは最終手段ですね。切れにくい素材の、飾りに見える紐のようなものを鞄と手首につけていました。ちなみに、反対側の手首には手甲を填めていましたよ」
「テッコウ?」
真由ちゃんと真琴が首を傾げました。
「ええとね、手の甲を覆う…防具」
そう説明すると珍しく修斗先輩が立ち上がって言いました。
「いや、全部が防具じゃないから!」
全員の視線を受けて、修斗先輩は静かにソファに座り直します。
「細かい金属が入った手甲で、とっさに刃物を受けるためにつけていました」
「どんだけ危険だったの…」
「警察にも相談したのですけどね」
結局鞄に穴があく事態になりましたね。
逃げましたけど。
「話を戻しますけど、それで応援団の部室に日向先輩を何とか来てもらった後はどうするんですか」
「動きの良い生徒を数人待たせておいて、捕まえる」
「ドアの前に立つ人と、窓から逃走するのを防ぐ人が必要なのですけど」
「陽向…」
「何だかとんでもない話になってきたね。日向も大人しく話を聞けば良いのに…」
甲田先輩がため息をついて応援団部室の間取りが描かれた紙をテーブルに置きました。
「すみません、私が何とかすれば良いのでしょうけど」
「さすがに陽向ちゃん一人じゃ捕まえられないでしょう」
「好きな人ができたら教えてほしいと言われてるので、できましたと言えば来ます?」
「「「「「「好きな人できた!?」」」」」」
私以外の全員が声をそろえて言って立ち上がったので、こちらの方が驚きました。
「いえ、あの。そういえば来ますか? と…聞いただけなのですが」
「あ…あぁ。そういうことね」
全員が脱力したようにソファに座りました。
「もういっその事、日向の家に押しかけた方が早くないか?」
「日向先輩って確か一人暮らしですよね。私が行ってもドアを開けてもらえないかと思うのですが」
「ドアの横に窓があるタイプだから、隠れても見えるか…」
甲田先輩は日向先輩の部屋に行ったことがあるんですね。
「そこまでして、逃げてどうするんだろうな」
晃先輩がため息交じりにつぶやきました。
「晃先輩…」
「あぁ、すまない」
晃先輩への答えは二月十四日に話す約束になっています。
その前に日向先輩にも話して置きたいのですが。
捕まえられるでしょうか。