第百六十九話 翌日です
目を覚ましてみると、いつの間にか自分の部屋のベッドで寝ていました。
父が運んでくれたのでしょうか。
泣きながら寝てしまったので、多少の頭痛がしますが起きあがれないほどではないので顔を洗うために洗面所へと行きました。
華さんが冷やしてくれたらしく、目が腫れていません。
ホッとしてパジャマのままでしたがリビングへと行きました。
「華…さん?」
「陽向、起きたのね」
ニッコリ笑って抱きしめてくれました。
「あの、お父さんが運んでくれたんですか?」
「うん、そう。今朝早く出かけたけど、帰ってきたら話をしようって言ってたよ」
「……はい」
中学の時に折り合いをつけた感情を。
父に話すときが来たのだろうと、分かりました。
「華さん…あの」
「何?」
「…何でもないです」
「そう?」
「今、何時ですか」
「もうすぐお昼かな」
日曜日なので学校はお休みですが、生徒会のお仕事はあります。今日は午後集合だったので、ホッとしました。
「着替えて来ますね。午後から生徒会なので」
「そっか」
「華さん」
「ん?」
「冷やしてくれたの華さんですよね」
「うん。ふふふ。そう言うところは学や龍矢じゃ気が回らないでしょう」
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
部屋に戻っていったんは私服に着替えます。
食事をしてから制服ですね。
軽く身支度をしてキッチンへと行きました。
ブランチになってしまいましたが、たっぷりと食べて登校の準備をしました。
時々手が止まって考え事をしてしまったので、いつもよりだいぶ時間がかかってしまいましたけれど。
「華さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
見送ってくれた華さんに手を振って、私は自転車に乗り泉都門を目指しました。
「陽向!」
途中で声がかかり、止まって振り返ると日向先輩がこちらへと走ってくるのが見えました。
「日向先輩。こんにちは」
「…あぁ、こんにちは。これから生徒会?」
「はい、そうです」
「学園まで一緒に行っても良いかな」
時計を見ると余裕があったので、頷いて自転車を降ります。
「歩きながら話そうか」
「はい」
歩き出してしばらくは沈黙が続きました。
隣を見ると、何か難しい顔をしていたので何も言わずに前を見ることにします。
もうすぐ泉都門の高等部大門が見えてくるあたりで、ようやく日向先輩が口を開きました。
「昨日、和泉先輩から電話が来た」
思わず立ち止まってしまい、日向先輩はしばらく歩いた後、立ち止まってこちらを振り返りました。
「自分も告白したと。……どうやら本当のようだね」
「…はい」
「そうか」
再び歩いて並んで行きます。
「答えは決まっている?」
「…いえ。あの、でも」
「僕への答えはいらない。君から返ってくる答えはわかっているから。でもね、諦めるつもりはないよ」
「日向先輩。でも」
「君に、好きな人ができたら教えてくれ。それが誰であったとしても」
丁度大門前で立ち止まって、日向先輩が静かに言いました。
「それまでは……諦めない」
真面目な顔でそう言った後、ふっと微笑んで私の耳元へ口をよせて、最後に囁きました。
「覚悟して」
真っ赤になった私の顔を見て満足したのか、そのまま大門に入って行きます。
私は自転車通学専用の門へ行かなくてはならないので、そちらへ顔が赤いまま行かなくてはなりませんでした。
「顔赤いけど、大丈夫?」
何て守衛さんに言われてしまいました。
生徒会室に行くまでに、何とか普通に戻さないと。
深呼吸したりして、顔が落ち着いてから生徒会室へと向かいました。
時間がギリギリになってしまいましたよ。
もう。
実は生徒会の仕事が午後からなのには理由があります。
前日生徒会が終わってから床のメンテナンスに入ったからです。
ワックスが速乾タイプであるとはいえ、念のため午前は誰も入らないようにという事なのです。
ドアを開けて入ると、床がピカピカ。
うん、清々しいですね。
「あ、陽向ちゃん」
やはり私が最後だったようで、芹先輩修斗先輩、真琴と真由ちゃん。全員そろっていました。
「遅くなりました」
「大丈夫だよ、まだ時間前だから。それより、ほらこれ。試食用の届いたよ」
バレンタイン限定スイーツの試食がもう届いていました。
チョコクッキーはハートの形で、上にホワイトチョコなどでデコレーションされています。
もう一つはフォンダンショコラ。
「学食でホットチョコレート出すんだって」
予定メニューが書かれた紙を見せてもらいました。
当日は学園中がチョコレートの香りで包まれそうですね。