第百六十八話 大混乱です
自宅に帰って手洗いうがいを済ませた後、いつも通りに着替えて。
リビングに行くと華さんがテレビを見ていました。
いつもの夕方の番組です。
キッチンを覗くとムニエルにするのか小麦粉がまぶされた魚が四角い銀の容器に入っていました。
「お帰り、陽向。今日は学も龍矢も帰ってくるの遅いらしいから、二人で食べちゃおうっか」
ニコニコ笑っていた華さんが、私の様子に少し怪訝な顔をしました。
「陽向? どうしたの」
「華…さん」
「何かあったの?」
「あの、えっと」
何かを察したらしい華さんが私の処まできて、肩を優しく叩きました。
「座って。今ココア入れるから」
キッチンの椅子に座ると、すぐに華さんがココアを淹れたコップをおいてくれました。
「さ、飲んで」
「は、はい」
一口飲むとホッとして、体の力が抜けます。
「何かあったの?」
「あの…ですね」
「うん」
「こ、告白されてしまいました」
「…ん? 誰に?」
「あ、晃先輩です」
「えっ」
とっても恥ずかしくなってココアを再び飲むと、華さんが首を傾げていました。
「えーと。以前、日向君にも告白されてたよね」
「…そんなこともありましたね」
「その時こんなに動揺していなかったと思うんだけど」
「かなり動揺しましたよ?」
そうだっけ? と反対側に首を傾げます。
「日向君にもまだ返事してないんだよね?」
「えっと…返事を希望されていないと言いますか」
「ふうん」
「言おうとすると遮られると言いますか」
「ふむふむ。彼は一目惚れみたいなこと言ってたから、少しずつ距離を縮めたかったのかな」
そういえば日向先輩にも言わなくてはいけないのでした。
「日向君に言う言葉は決まっているのね?」
「はい」
「晃先輩って、理事長の息子さんだっけ」
「はい、和泉晃さんです」
「和泉君に言う言葉は決まったの?」
「……ええっと。混乱中でして」
「言われると思っていなかった?」
「…はい」
優しい先輩であることは身に染みてわかっていましたけれど。
でも、妹のような感じだと思っていました。
「今頃、家に帰って身悶えしてるかもね」
「誰がですか?」
「和泉君が」
「まさか」
「……うん、まあいいけど。それで陽向は和泉君のことどう思うの」
「どうって…優しい先輩ですよ。俺様とか言いますけど、とても優しい先輩です」
「好きだと思う?」
「…今日、晃先輩に指摘されました。一枚壁があるようだって」
華さんはそれを聞いてため息をつきました。
「和泉君は陽向のことよく見てるのね」
「わ、私は…」
「陽向」
華さんは後ろから抱きしめてくれました。
「落ち着いて、よく考えて。陽向がどんな答えを出そうと私も学も龍矢も味方だから」
「華さん」
少しでも落ち着こうとココアを再び飲みました。
小さく息をついて、口を開こうとしたら何故か涙がこぼれます。
「陽向」
「こ、怖いです。壊れた壁の先に行くのが」
「うん」
「何を言ったらいいのかわからない…」
「うん」
「今までのようじゃダメなんですか? 今まで通りに…」
「陽向」
「晃先輩が…あんなこと言うから」
「陽向、彼だって相当な勇気が必要だったとおもうよ」
わかってます、わかってるんです!
「嘘だって、さっきのは嘘だって言って欲しい」
「陽向」
「だって…晃先輩に答えを出したら」
そしたら…変わってしまう。
全てが。
「どうして…どうして今日…」
「落ち着いて」
震える体を華さんが抱きしめてくれます。
「沢山考えて陽向。大丈夫、傍にいるから」
華さんの腕の中で泣いてしまって。
何度も何度も名前を呼んでくれた華さんの声が遠くなって。
私は意識を手放したのでした。
壁の問題と告白が同時に来てしまったので
大大大混乱中の陽向です。
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今日明日と二夜連続で更新しますので
よろしければ、そちらもよろしくお願いします。