第十七話 天使の微笑みで悪魔の取引です
「うん、話は分かった。平穏に暮らしたいって気持ちもよく分かったけど。たぶん、もう遅いと思うよ」
「どうしてですか」
「陽向ちゃんは飯塚の二人と友達だよね?」
「はい」
「ボクらと知り合う以前に、もう平穏じゃない道を歩いてるよ」
「はい?」
「真琴くんが泉都門で騎士と呼ばれてるのは知ってるかな?」
「なんですかそれ」
「中等部の時から女子に絶大な人気があるんだ。そりゃぁもうストーカーとか出るくらい」
「えっ」
「真由ちゃんを守る騎士。ずっと二人で過ごしてきたその中に、当たり前のように入り込んだ生徒。それが君。しかも真琴くんの方から話しかけたって聞いたよ。ずっとその位置を狙っていた女子からすれば、嫉妬の感情を持つのは当たり前かな?」
私は寒気がして身震いをしました。
「今のところは同じクラスだし選択科目も同じらしいから、そんなに困ってはいないと思うけど。でも過去の経験から分かってるよね? 一人になるとこがどうしてもあるって。その時、誰かが君を知っていた方が安全だと思うんだ。生徒会の水崎陽向になれば、制服も違うから余計に人の視線が集まる。その分、一人になる危険は減るよね」
「ち、注目を浴びるリスクがあると思われますが」
「うん、でもさ。今でも十分注目浴びてるし、その状態で一人になったらどうなる? 君のクラス以外で、数少ない男子は君の名前と顔が一致しないと思うよ」
「生徒会のメンバーなら、報告が来る可能性がある。俺たちが助けに行ける」
「なるべく平穏に暮らせるのは、どっちだと思う? 陽向ちゃん」
天使の笑顔を浮かべた一条先輩は、首を傾げて私を見ました。
はっきり言いますと、どちらも平穏ではありません。
でも一条先輩のいう「なるべく」平穏な生活をおくるには生徒会に入るしか道は残されていないのでした。
「せ、生徒会役員って選挙で選ばれるものじゃないんですか」
「一応ボクらは去年の選挙で選ばれたよ。他に立候補もいなかったから、実質選挙はしてないけどね。でも上級生が卒業して抜けた後は、次の選挙があるまでは役員の推薦で生徒会に入れるんだ。もちろん顧問の了解は取るけどね」
泉都門学園高等部では、三年生もぎりぎりまで生徒会の仕事をするらしいです。
それで、会計と書記が抜けたので一年生の二人を入れることになったのだとか。
「陽向ちゃんが生徒会に入ってくれたら、生徒会室にいつでも入れるしテスト期間中でも職員室に出入り可能。各特別室の準備室にも顔パスだよ? そのための生徒会特別制服だからね。さらに伝家の宝刀が使えるよ。『会長に呼ばれてます』もしくは『副会長に呼ばれています』ってね」
もはや逃げ場はありません。
その代わりに学園での逃げ場をゲットできるのです。
ガックリと肩を落としてうなだれた私の肩を優しく叩いてくれたのは更科先輩でした。
とっくの昔に遅かった件。