第百六十三話 チョコフレーバーに気づく頃です
留守番をしていた晃先輩とまったり煎餅を食べた後、仕事を再会しました。
真由ちゃんはバレンタインデー当日の入荷予定表を見ています。
そうなんです。
購買やその他のお店で当日のみ販売するのです。
大抵の方は学園の外でお買い求めになるようですが、少数派に購買で買う方がいらっしゃるそうです。
そして大抵が義理チョコだったりします。
売店でも売ってるし当日でもいっかー…という女子の声が聞こえるような気がしますよ。
ちなみに生徒会が入荷数をチェックしておくのには理由があります。
泉都門では義理も含めますと、チョコをもらわない男子はおりません。
何故ならばクラスに二~三人しかいないからです。
クラス全員で彼らに送っても懐はそんなに痛みませんし、小さなチョコ一つを渡しても結構な量がもらえるということになるのです。
毎年の傾向からみて数をそろえておいて、なるべく男子にチョコを…一つでも多くもらえるようにと。
何代か前の生徒会長が泣きながら言ったとか言わなかったとか。
ですがもちろんこれは義務ではなく自由意志でということなので、誰にもあげない女子ももちろんおりますでしょう。
「友チョコとか自分チョコも増えてるから、今年も少し多めに入荷予定だって」
「なるほど。バレンタイン限定チョコとかあると、自分で食べたくなるもんね」
真由ちゃんと書類を眺めつつ、ラッピングされたチョコを思い浮かべました。
今年はどうしましょうね。
父と龍矢さんに渡すのは決定事項ですけど。
買いにいくべきか、手作りにするべき。
「もちろん、俺様にもくれるんだよな?」
ニヤニヤしながら晃先輩が真由ちゃんと私の顔を見ながら言います。
「そうですねぇ。こういう場合は何というのでしょう。義理チョコというのも何だか違うような気もしますが先輩チョコ何て言葉ないですし」
「お世話になってますチョコ?」
「名前はどうでもいいから、よこせ」
「わかりました。手作りと既製品とどちらがいいですか」
「どっちでもいいが…何故聞く」
「手作りは重いとか、既製品だと軽いとか。余計なことを言う方もたまにいますので」
「うまいなら、どちらでもいい。なんならチョコじゃなくても良いくらいだ」
「何でも良いんですか」
「もらえるんだろ? 俺様のことを少しでも考えてくれたという結果の物だ。嬉しいに決まっている」
さすがに嫌いなものは困るがな…と呟いて。
それでも晃先輩なら受け取ってくれるのかもと思いました。
ふと真由ちゃんを見ると、何故か頬を染めています。
あれ、変なフラグ立ちました?
「真由ちゃん?」
「な、なんでもない」
わざとらしく咳をして、書類に視線を移した真由ちゃんは、時々私をちらりと見ては何故かため息をつきました。
何かしましたでしょうか?
「二月十四日って三年生は登校日じゃないですよね」
「あぁ。だがほとんどの三年生男子は登校すると思われる」
「……そうですか。寮にいったり配達をしなくてすむのは助かりますけど」
「泉都門学園はまだ良いほうだろう。何しろもらえない奴はいないからな。クラスの誰かが必ずくれる。他の学校の男子を考えると何とも言えない寂寥感が…」
「チョコにそこまでの威力が…」
「気にしない奴は気にしないんだがな。やはりもらうと嬉しいものだ」
「そうなんですか」
「白坂高校ではチョコを学校にもってくるのを禁止しようとする動きがあったらしいぞ」
「え」
「生徒の大反対にあって今まで通りになったらしいが」
バレンタイン騒動は色々あるようです。
「ホワイトデーに何か欲しい物はあるか」
「まだ、バレンタインすら来ていませんが」
「くれるんだろ?」
「ええ」
「だったら良いじゃないか」
「……。晃先輩のさっきのお言葉を借りますけれども、自分を考えてくれた結果でしょうから、晃先輩が考えてくれたもので良いです」
ね? 真由ちゃん…と同意を得ようとして見ると、真っ赤になってうつむいていました。
真由ちゃん? 熱があったりしませんよね?