第百六十二話 欲しいものです
生徒会室に戻ると、青の生徒会の皆さんはすでにおらず、晃先輩がいました。
「晃先輩」
「ああ、誰もいないから留守番を頼まれた」
生徒会が全員出払っていたので、丁度来た晃先輩に顧問の先生が頼んだようです。
「全員鍵を持ってるから大丈夫だと言ったんだが、良いから待っていてくれと言われてな」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「晃先輩は、何かご用ですか?」
真由ちゃんが聞くと、晃先輩は首を横に振りました。
「いや、風紀委員の引継も終わったし暇なんでな」
「お煎餅を教頭先生からもらったんです、一緒に食べましょう」
「あぁ」
お茶を淹れて三人でまったりです。
「あ、そうだ。晃先輩。理事長に登場曲はあきらめてくださいと伝言お願いします」
「登場曲って何だ」
ブラスバンドに届いた手紙のことを説明しますと、晃先輩はため息をつきました。
「それでか…伝えておく。バラを口にくわえてポーズを決めた後、投げる練習をしていたから、それもやめさせておく」
「…ありがとうございます」
どんな練習ですか…。
「またレッドカーペットでも用意するつもりだったのでしょうか」
「さすがに来賓がいるからな。そこまでやるつもりではなかったと思うが…ノリが良い人が多いから全員で示し合わせる可能性もなくはない」
それは…止めないといけませんね。
「理事長に会ってきちんと言った方がいいでしょうか」
「…俺様が言うより、陽向たちが言った方が聞くかもしれんな。三人で行ってこい。女子には弱い」
「わかりました。アポ取っておきます」
理事長も何だかんだ言いまして忙しい方なので。
卒業式前に会えるといいのですけどね。
「ところで晃先輩はどちらに進むんですか?」
「ん…俺様は教育学部だな」
「なるほど」
「貴雅も同じだぞ」
貴雅先輩が教育学部…うーん。
「まぁ必ず教師になるわけでもないだろうから」
「そうですけどねぇ。貴雅先輩の場合はどこへ行っても心配なような気もします」
私の中のイメージを変えてみせると意気込んだ割には、全然変わってないですから。
「あれでも少し変わった方だぞ」
「そうですか?」
真由ちゃんに視線を移して首を傾げてみると、真由ちゃんは意外にも頷きました。
「変わったと思う」
「そうかなぁ」
「少なくとも、とっかえひっかえではなくなったようだぞ」
「そうですか」
「少なくとも、とっかえひっかえではなくなったようだぞ」
「そうですか」
最近生徒会室には来ないので、変わった感じはわからないのですが。
「卒業式は大変だな」
「……あぁ。でも第二ボタンとかないでしょう」
「むしり取られる心配はないが、プレゼントは相当あるだろう。後は、バッジの取り合いだな」
「あぁ、クラスバッジ」
「たまに、中に来ているシャツのボタンを取ろうとする猛者もいるからな。油断はできんぞ」
何だか…想像がついてしまうのが恐ろしいです。
「晃先輩だって、狙われてるでしょう」
「俺様に近づいたら投げ飛ばすと通達してあるから、大丈夫だ」
どこへなんていう通達ですか!
「静は、当日もみくちゃにされるタイプだな。ま、俺様は助けん」
そうだろうとは思いましたよ。
「当日悩みどころなんですよね。花束は色んな人からもらうでしょうし、食べ物はかさばりますでしょう」
「俺様は、陽向のキスでいいぞ」
「却下です」
「金がかからなくて良いだろう」
「気分的によくありません」
「恥ずかしいなら、人のいないところででもいいが?」
「その方が危ない気がします」
隣で真由ちゃんが笑ってますけど。
「まぁ俺様は生徒会ではないし、何もいらんよ。一つ言うなら」
「言うなら?」
「全員での写真がいいな。卒業式当日に全員で撮った写真が欲しい」
「……分かりました」
頷いて見せると、晃先輩は破顔しました。