第百六十話 三人の名前です
放送部長との話も終わり、談話室の出入り口で別れました。
黄色さんは相変わらず後ろを着いてきますけど。
そのまま生徒会室に戻ると、真琴と修斗先輩が戻ってきていました。
「あ。陽向お帰り」
皆さんソファに座ってお茶を飲んでいました。
「さて、ここに帰ってきたので、質問してもいいですか」
黄色さんが首を傾げました。
「青の生徒会って、頭文字をとってアオノ何ですよね? だったらどうして白鳥さんは白鳥なんです?」
「ああ。確かに頭文字だけど、生徒会って別に三人だけじゃないでしょう」
「あぁ」
アオノ生徒会参上とかいうから、てっきりその三人なのかと思ってしまっていましたね。
「なるほど、それはわかりましたけど。名乗らなかったのは狙ってましたか」
「…誤解すると良いなとは思ってたかも」
黄色さんは舌を出しておどけて見せます。
「ちなみに、俺は野津でも大槻でもないよ。中田っていうの。中田条理。天野が会長の時、書記やってました」
青い服の人は中田さんでしたか。
三人は同学年だったそうです。
「今日はあの当時の生徒会全員でくる予定だったんだけどね。仕事やらなにやらで三人だけになったもんだから」
名前をきちんと聞かなかった私たちも悪いとは思いますけど。
「じゃあ、白鳥さんは本当に白鳥っていうんですね」
「うん、そう。さっきも言ったけど本名だよ」
どっかで聞いたことのあるような名前ですね。
どこでだったかは忘れましたが。
「あらためまして、青の生徒会会長、天野星司」
「同じく会計、白鳥麗」
「同じく書記、中田条理」
大槻さんが副会長で野津さんが会長代理だったそうです。
「代理!?」
「生徒会の有り様を変えるために必要な人材だったから、無理矢理役名作って据えちゃったんだよね」
「つまりのとこ、名前の三人は役名は違えども、それぞれ会長と同じ仕事をしてたってこと。三人会長が居たような感じ」
「そうじゃないと、変えられなかったと思う」
「三人とも、いつも生徒会室にいなかったよね。あちこち走り回ってた」
「他の皆が支えてくれなかったら、とてもじゃないけど成し得なかったと思っている」
「でもさー。大槻には後で怒られたよなー。俺たちが卒業しちゃった後、大変だったみたいだし」
三年生が卒業した後、まだ途中だったにもかかわらず丸投げして、次に生徒会長になった大槻さんが何とか形にしたのだとか。
「伝説のーとか言われてるけど、どっちかっていうと大槻だけでいいんじゃないかと思ってる」
「「確かに」」
それから何年もたったので、生徒会もだいぶ変わったようですけど。
大槻さんの時代には、もっと忙しくてもっと大変だったようです。
今みたいに全員にパソコンという時代ではなかったようですし。
「大槻に今の生徒会見せたら泣いて喜ぶかもな」
三人で頷きあっていました。
何だか不思議な気持ちですね。
先輩たちがいるから、私たちがこうしているわけで。
何もしなかったら、今の生徒会はこの生徒会じゃなかったかもしれないんですね。
なんて感慨深げにしている時間はないのでした。
「すみません、職員室とブラスバンド部へ行ってきます」
「あ、私も一緒に行く」
真由ちゃんが立ち上がりました。
ブラスバンド部には曲目の相談があります。
「僕らもそろそろ行きます。大学部の方に用事があるので」
芹先輩と修斗先輩も立ち上がりました。
「僕も、守衛さんと話があるので」
卒業式当日の臨時駐車場についての話があるので、真琴もでかけます。
ということは。
伝説の生徒会と顧問の先生置き去りです。
仕方ないですよ。
だって忙しいですし。
忙しくなるように作ったのは、先輩たちですもんね。
私たち現生徒会の面々は顔を見合わせると、嬉々として生徒会室を飛び出したのでした。