第百五十九話 大人だからって大人じゃないです
伝説だろうが何だろうが、そんな話は後です。
ホールの見取り図を持ちながら放送部部長と話をしていると、後ろで何故かうずうずしている黄色さん。
マフラー面倒になりました。
黄色さんの方がわかりやすい…ですよね? 名前? 呼びませんよ。
「何で白鳥さんが来てるの?」
ひそひそと小声で尋ねて来たので同じく小声で返します。
「本人に聞いてください。私は却下したんですよ」
後ろでそわそわされると集中できないですよ、本当に。
「大人だよね?」
「間違いなく大人です」
二人でちらっと黄色さんを見て。
ため息がでました。
「生徒会室には赤と青もいるんです」
「まじっすか」
「“まじ”ですよ。全員着いてこなかっただけマシかもしれません」
「全員マフラー?」
「いえ、さすがにそれは」
「赤は?」
「セーターでした」
「青は?」
「服ですね上下青でした」
「うはー。徹底してる。それでマフラーが黄色か…意味わかんない」
信号ですかねと後ろで部員の方が言っています。
「信号…あぁ。ヒーローなら二人足りないとか思っちゃいました」
「ヒーローねぇ」
「一応伝説の人らしいですから」
「伝説=ヒーローってわけでもないでしょう」
「…まあ、そうですね」
放送室にある鏡でマフラーの位置を直しているのが見えました。
「ここがホールの放送室なので、ここにですね」
「あー。こっちだとちょっと…。コードレスもあるけど、たまに途切れたりするからねぇ」
「たまに来賓の方が足を引っ掛けることもあるそうですし」
「あー、そっち優先かあ。仕方ないね。大勢の前で転ぶとか、嫌だもんね」
生徒が転ばないように…じゃないところがまぁ。
「生徒でも恥ずかしいっちゃ恥ずかしいだろうけど。やっぱり大人の方が精神的衝撃が半端ないだろうね」
「そういうことなので、コードレスでお願いします」
「予備も用意しておくね」
「はい。後はですね」
そわそわしていた黄色さんがとうとう痺れを切らしたらしく、私たちの間に入ってきました。
「ねぇ、今は昼ラジやってないの?」
「……やってませんが」
「えー」
「向き不向きがありますので、次の放送部員では無理だったんだと思います」
音楽はともかく話すということは意外と難しいものです。
しかも不特定多数へ向けてですから。
「なーんだ」
何もない床を蹴って、黄色さんは拗ねました。
いい大人が拗ねました。
頬を膨らませてます。
「どうするのあれ」
「こちらのOBなんですから何とかしてください」
「ちょっと、生徒会のOBでもあるんでしょ」
「あと二人いるんですから、一人くらい何とかしてもらえませんか」
「いやいや、面倒はごめんだよ」
「……卒業式の話が進みませんね。場所を移動しますか」
「あぁ、その方がいいかも。談話室行く?」
「そうですね」
部長さんが部員に声をかけて、放送室を出ます。
当たり前のように着いてきました。黄色さんが。
「空気です空気」
「目が痛い空気なんてないって」
談話室へと入ると、黄色さんが珍しかったらしく中にいたほとんどの生徒が注目してしまい、居心地がよくありませんでした。
「どうします?」
「どこへ行ってもこんな感じだと思う」
「…では続きを。司会者のマイクはコードレスですけど、壇上のはどうします?」
「転ばせたくないっていうなら、こっちだってコードレスの方が良いんじゃないの?」
「でも、こちら側にコードを回せば、上り下りはここなので、踏んだり躓いたりはしないんじゃないかと」
「うーん。こっちもコードレスで良いんじゃない? 予備は結構あるし。さすがに全部壊れてはいないと思うよ」
「念の為、確認をお願いしますね。不良品があったら、連絡してください」
「了解。明日やっておく」
「助かります」
そんな話をしているとテーブルに二つのジュースが置かれました。
「おごり」
黄色さんがウィンクをしながら言います。
ありがたいことではありますが。
声が大きいです。
目立ちまくりです。
二人で小さな声で感謝を述べて、ジュースを飲みました。
あの、いつまで着いてくるつもりですか黄色さん。