第百五十話 待ち合わせです
江本君と一緒に外へ出ると江本君のお祖母さんが待ってましたとばかりに来るまで送ってくれました。
しかも帰りに迎えに来てくれるというのです。
何だか申し訳ないですね。
「雪道だから自転車乗れないし」
江本君は普段は自転車であちこち移動しているそうですよ。
まずは待ち合わせのお店へ。
そこでおろしてもらって、何故か二階へ行きました。
「わり、待った?」
そこはゲームコーナーでした。
「待ってねえけど。何、見かけない顔だけど彼女?」
「こんにちは、水崎陽向といいます。江本君のお祖母さんの家の隣に住んでいる家族の親戚です」
「はあ?」
「お、同じ年くらいだし。明日帰っちゃうっていいうからさ」
「へぇ。なに、内地?」
私たちが住んでいる方を北海道の方は“内地”と呼んでいるようです。
「はい」
「へえ、可愛いじゃん。俺の彼女にならねえ?」
「遠距離恋愛はお断りします」
そういうと、その人は笑いましたが江本君が何故か顔をしかめていました。
「俺、佐藤 悦司。えっちゃんって呼んでよ」
「佐藤君と呼びます」
「固いなあ。まあいいけどさ」
「ところで、お前だけ? 剛と康子は?」
「まだ来てないな。先に遊ぶ?」
「いや、来てからにしようぜ」
「りょーかい」
ゲームコーナーの向かい側にある、休憩所のようなところのベンチに座って待つことになりました。
「高校生だよねー。何年生? 俺たち一年生なんだけど」
「私も一年生ですよ」
「そっかそっか。ちなみにどこの高校か聞いてもいい? 俺たちの高校は地元の名前が付いちゃってる普通の高校」
「そうですか、私は泉都門学園高等部です」
「せ…」
「泉都門って…あの?」
「マジ?」
「知ってますか?」
「知ってる知ってる。へぇ」
二人は妙な感心をしていますけど、意外に有名なんですね泉都門。
「んじゃ大学ストレートなんだ」
「一応そうですね。お二人はやはり北大ですか」
二人は声をそろえて「うーん」と唸りました。
有名どころをいってみたのですけど。
「ところでさ」
話を変えましたね。
「彼氏いる?」
「いません」
「ふむふむ。遠距離はだめなんだよね? それじゃさ。俺が内地の大学に行ったらどう?」
「どう? と言われましても。今日お会いしたばかりですし」
「まあそうだけどさ。陽向ちゃんが来てっていうなら、俺行っちゃうんだけどな」
「人様の進路に口を出せるような人間じゃありませんから」
「やっぱり固いなぁって進、何、固まってるんだよ」
「あ…あぁ」
何かもごもごと言っていましたけど聞き取れませんでした。
その時背中に気配を感じて振り返ると、今まさに私に触れようとする人が居たのでとっさに避けました。
みなさん驚いたような顔で固まっていますけど。
「もしかしてお友達ですか」
「う、うん」
「許可も取らずにさわろうとしないでくださいとお伝えください」
「あ、ごめん。てっきり知ってる子かと思って」
ペコペコと頭を下げる人が待ち人だったようです。
「だからいつも後ろから抱きついたりするなって言ってるだろ」
「悪い。奈津かと思ったんだよ。本当すみません」
奈津さんというのは、このペコペコ頭を下げている人の従姉だそうです。
「どうも初めまして、佐木 剛です」
「初めまして、水崎陽向です」
「あれ、康子は?」
「家を出るときに連絡したんだけど、寝起きだったからまだ時間かかるかも」
「またかよ」
三人が深いため息をつきました。