第百四十九話 お隣さんの親戚side江本進
めちゃくちゃ可愛い子がお隣にいた!
と思ったら親戚らしい。
親戚って孫だよな?
俺の家は祖母の家に近いし、これから冬休みの間だけでも毎日来ようかなんて算段をしていると、祖母の口から明日帰るのだと教えられた。
「え、だって冬休み終わるのまだだろ」
「やぁねぇ。向こうは7日あたりで新学期なのよ。北海道とは違うの」
カルチャーショックとはこのことか。
そんなに早く新学期が始まるなんて。
俺の顔を見た祖母は笑って、俺に袋を渡した。
中を覗いてみると蜜柑がたくさん。
「お隣にお裾分けですって渡して来てちょうだい。後は進の腕しだいってとこでしょ」
「ありがと! 祖母ちゃん!」
俺は防寒靴を慌てて履いて、お隣へと駆け込んだ。
インターホンを押す前にもちろん息を整えて。
意を決して押すとすぐに応答があった。
「あの、隣の…江本です」
ドアが開くと蜜柑の袋を渡す。
「祖母がお裾分けだって」
「あらあら、ありがとう」
ニコニコ笑っている人は祖母と同じくらいの年代だろうか。
「あ、あの」
俺はどきどきして心臓が口から出そうな気分になりながら唾を飲み込んだ後、思い切って言ってみた。
「あの。お、お孫さんとお話してもいいですか」
「孫? 龍矢のこと?」
「え? いえ、あの。俺と同じくらいの…」
「あぁ! 陽向ちゃんのことね。はいはい。ちょっと待ってね、今呼んでくるから」
ふふふと笑って奥へ入っていく。
彼女が来るまでの時間が、やたらと長く感じられた。
「何か?」
「さ、先ほどはどどどうも。あの、俺、江本進っていいます」
「…、はい。先ほど聞きました」
そ、そうだった。
何を焦っているんだ俺は。おちつけおちつけ。
「あ、あの。明日帰っちゃうって聞いて」
「ええ、そうですけど」
「良かったら、一緒に遊びませんか」
「え?」
「午後から、友達と遊ぶ約束してるんですけど。あの、良かったら一緒に…」
あ、これさっき言ったばかりだ。
ええとええと、何を言えばいいんだ。
「こ、公園に色々あって…ええと遊具じゃなくて、氷でできたライトみたいなのがありましてですね。夜じゃないから綺麗じゃないけど…えーと。あれ、それじゃ楽しくないか。えーと」
俺がオタオタしていると、キョトンとしていた彼女が吹き出して笑い出した。
笑顔も可愛い。
「夕飯には帰りたいんですけど、いいですか?」
「は、はい。もちろんで…えっ? いいの!?」
思わず言うと、笑いながら頷いてくれた。
やった…やったぞ!
「今すぐですか?」
「いや、えっと二時からだから…」
「そうですか、それじゃ用意するので待っていてもらえます?」
「は、はい」
コクコクと頷くと、どうぞと言われた。
どうぞ?
どうぞ…どうぞって。
え。
中に入れってこと?
「玄関は寒いでしょう?」
「は、はひ。お邪魔します」
中へ入れてもらうと、こたつに五人の大人がいた。
「お父さん、江本君と遊びに行ってきますね」
「え」
「お友達と一緒ですから、二人きりではありませんよ」
その言葉に少しだけドキッとした。
「おと…」
「お父さんは来なくていいです」
陽向ちゃんが父親らしき人の言葉を遮っていったのに少し驚いてたっていると、榊さんの奥さんがコタツに入るよう勧めてくれた。
いや、あの中に入る勇気ありません。
若い方の男性二人の視線が怖いっす。
奥さんの横にいた女性はこちらに背を向けたまま、こちらをみないけど勝手に誘ったことを怒っているんだろうか。
「え、江本進です」
頭を下げると榊さんが笑ってストーブの側に来るように言ってくれた。「江本さんのとこのお孫さんだね。大きくなって」
「ど、ども」
俺がストーブの前に移動している間に、さっきの女の人がキッチンにいってしまった。
顔見たかったけど、仕方ないか。
「この仏頂面なのが孫の龍矢、キッチンに行ったのがお嫁さんの華ちゃん。その華ちゃんの弟さんの水崎学さん。陽向ちゃんのお父さんよ」
「孫? 陽向ち…ごほん。陽向さんはお孫さんじゃ?」
「いえいえ。親戚になるわね。孫のお嫁さんの姉弟の子供だから」
なんでお嫁さんの弟まで来てるんだ?
さっきからビシビシ視線が痛い。
怖い怖いよ。
二人から睨まれてるよ俺。
榊さん夫婦はそんな様子をみて笑っている。
いや、助けてくださいよ笑ってないで。
「お待たせしました」
ああ天使の声がきこえる。
「お父さん?」
「むむっ」
「むむっじゃないですよ。人様のお子さんに威嚇しないでくださいね」
いや、お父さんだけじゃなくて、こっちの龍矢さんにも言ってくれると嬉しいんだけど。
「夕飯までには帰って来ますから」
渋々と言った様子でお父さんが頷いたけど。
俺の側まで来て肩をガシッと掴んだ。
「きちんと守るように、いいね」
「は、はひ」
イケメンの必死の形相は怖いです。
俺、誘わない方が良かったのかな?