第百四十一話 ピザを忘れてはいませんか
次に静先輩と貴雅先輩が来ました。
ソファに座っている父を見てやはり固まります。
「如月静先輩と東雲貴雅先輩ですよ」
「あぁ!」
父が嬉しそうに立ち上がって握手をしに行きます。
ぽかんと口を開けたまま立っていた二人は、父が近づいていくにつれて後ろへ二歩下がりました。
「陽向の父です。電話では以前お話しましたね」
「は、はい。そのせつはお世話になりました」
「いやいや、お会いできてうれしいですよ」
ニッコリ笑った後、貴雅先輩に視線を移した父はふわりと微笑んで貴雅先輩の手を取りました。
「君が東雲君か。噂どおり王子様みたいなんだねえ。それにしても本当に生徒会は美形ばかりがそろっているんだね」
何故か全員ため息をついています。
「東雲です。ぜひ師匠と呼ばせ…うぐっ」
師匠の“し”あたりで貴雅先輩が言うであろう言葉が分かったので、扇子を開いて顔に軽くぶつけました。
「陽向、先輩に失礼だよ」
「これは失礼しました貴雅先輩」
ギロリと睨みながら言いますと、貴雅先輩は両手で口を押えて首を横に振りました。
「どうやら、イメージ払拭は諦めたようですね?」
扇子を閉じて言うと、貴雅先輩が慌てたように私の肩をつかもうとしました。
なのでひょいと避けまして父の横へと隠れます。
「貴雅、お前と学さんでは差がありすぎる。弟子になったところで同じようなことはできないよ」
静先輩が呆れたように言うと、口を尖らせて何もない床を蹴りました。
小学生ですか?
「陽向?」
静先輩たちの後ろから声がして、間から見ると真琴と真由ちゃんでした。
「あ」
隙間から父が見えたのでしょう。
やはり二人は固まりました。
真由ちゃんの頬が赤くなっております。
静先輩と貴雅先輩がよけたので、二人を紹介しました。
「お父さん、こちらが飯塚真琴さんと飯塚真由さんです。とても仲良くしているの」
父は二人に近づくと微笑んで跪きました。
女性には優しくがモットーの父です。
「初めまして、素敵なレディ二人にお会いできるなんて、とても光栄です」
お父さん、私の友達だってことを忘れないでくださいね。
「陽向の父、水崎学です。どうぞお見知りおきを」
芝居がかってますよ。
「初めまして、飯塚真琴です」
「は、初めまして、飯塚真由です…」
ポッと頬を染めて言う真由ちゃんは可愛いです。
「とても可愛らしい」
真琴と真由ちゃんの手を取ると、騎士のように指先に…って!
「お父さん、何やってるんですか!」
さすがの真琴も真っ赤になっちゃってるじゃないですか!
あぁぁぁ、真由ちゃん茹でダコになってますよ!
「高校生ですよ! 十六歳です!」
「うん、わかってるよ」
「二十歳まで四年あります!」
「うん、わかってるよ。ただの挨拶じゃないか」
「全然“ただ”の挨拶じゃありません」
くわっと怒ってみせると、父は小さく笑って立ち上がりました。
「真由ちゃん大丈夫? 真琴?」
「だ、大丈夫。破壊力すごいね」
「ひ…なた」
「と、とにかくソファに!」
静先輩と貴雅先輩に手伝ってもらって二人をソファに座らせました。
「お父さん」
「だって、若い子にはこれをやるとウケがいいって…」
「お父さん、いますぐ帰りたいですか?」
「……おとなしくしてます」
「よろしい」
誰情報なのか後で問い詰めないと!