第百三十二話 テスト期間中なんですけど
「何、一人で頷いてるのよ」
「何でもありませんよ、ところで宍戸さん」
「何よ」
「あぁ、やはり宍戸さんなんですね」
「っ!」
顔が真っ赤になって私を睨みつけました。
「私うんぬんの前にやることあるんじゃないですかと、お姉さんにお伝えください」
私に因縁をつけている暇があったら、別なことをしたらどうですか。
父は私がいるからと、恋を諦める人ではありませんよ。
真っ赤になったまま立ち尽くしている宍戸さんをおいて、学食へ入ると後ろから叫ぶ声が聞こえました。
「ホント似てないよね! 血がつながってないんじゃないの!?」
学食には私たち以外にも生徒がいました。
その学食内が一瞬でシンとなったのです。
こんなところで叫ぶ言葉じゃありませんよね。
だから、私は振り返ってニッコリと笑いました。
「それを言われたら私が怒るとでも? 残念ながら、その言葉はすでに聞き飽きています」
呆れるばかりです。
本人が来るならまだしも、妹さんですよね。
私が親離れをしたところで家族なのは変わりありませんし、いなくなったからといって父との恋が成就するわけでもないでしょう。
父のお断りの文句に「陽向がいるから」なんてありません。
鼻で笑ってしまいます。
「そもそも私のところへ来るのはお門違いですよ」
カッとなったのでしょう。
ツカツカと近づいて来ると手を振り上げました。
暴力にでるんですか。
ため息が出ます。
受け流す体勢をとろうとしたら、私と宍戸さんの間に一人の生徒が割り込みました。
「修斗先輩?」
「大丈夫か陽向」
静先輩や貴雅先輩までやってきました。
あ、後ろから風紀委員の方を連れて晃先輩も見えます。
「陽向、大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
皆さんに笑顔で答えると、宍戸さんがキッと私を再び睨みました。
「あんたばっかりっ…」
あぁ…。お姉さんのだけじゃなく、ご自分の感情も入っていたんですね。
生徒会にいるのも楽しいだけじゃないんですよと、ここで言ったところで余計に怒るだけでしょう。
風紀委員の女子が宍戸さんの背中を押して学食から連れて行きます。
「陽向」
「はい、なんでしょう晃先輩」
「しばらく園田をつけるぞ」
「はい、わかりました」
難癖をつけられるのは、私としても面倒ですし助かります。
ちなみに園田さんは一組の風紀委員の一人です。
「ご心配をおかけしまして」
ペコリと頭を下げると、先輩たちはホッとしたように笑いました。
振り返ると真由ちゃんと真琴もホッとした顔をしています。
たぶん二人のどちらかが生徒会に知らせたんですね。ありがとう。
「芹も心配していた」
修斗先輩の言葉に、私は頷きました。
「食事が終わったらすぐに生徒会室に行きます」
「あぁ」
一応メールも送っておきましょう。
それにしても、結局相手を怒らせてしまいましたね。
またもやご迷惑をかけてしまいました。
他にやりようがあるとは思うのですが、さすがにカチンと来てしまい、口が開いてしまいました。
静観する精神力が欲しいです。
大人になったらできるのでしょうか?