第百二十九話 集中させてください
いつもより仕事を早めに切り上げて、大図書館で勉強をしてから帰ることにしました。
真琴と私で勉強をして、真由ちゃんはその横で図鑑を見る…ということになっています。
真由ちゃんは図鑑が大好きで、今日は石の図鑑だそうです。
それも覚えちゃうんでしょうか。
だめだだめだ、自分に集中集中。
数学の教科書を開いてため息をつくと頭上で小さい笑い声が聞こえました。
「勉強する前からため息?」
「あ、日向先輩」
見上げると笑顔でした。
「先輩もここで勉強を?」
「いや、ちょっと司書さんと話をしに来たんだけど、こっちに来て良かったな」
「何かいい本でも?」
「いや、陽向に会えたから」
「……」
隣で真琴が笑っています。
真由ちゃんは図鑑に夢中でした。
「えーと…」
「わからないところある?」
「今、教科書を開いたところです」
「あ、そうだったね」
椅子を引いて隣に座ってくる日向先輩。
「自分たちで勉強しますから大丈夫です」
「学年一位の勉強法知りたくない?」
うぐっ。
それはちょっと…気になります。
「見たら覚えちゃうとか、逆から読むとかは無しですよ」
「何それ? そんな人いるの?」
「真由ちゃんは読んだら覚えるそうです。逆から読むのは貴雅先輩です」
「へえ。すごいなあ。貴雅先輩って…東雲先輩か」
「はい」
「変わった勉強法だね…」
「一回やってみましたが、さっぱりわかりませんでした」
「一応はやってみたんだ?」
真琴と二人で頷きました。
「まぁ、二人とも学年で20位以内でしょう? 成績優秀だと思うけど」
「生徒会の活動をするには25位以内にいないといけないので」
「へぇ、それは知らなかった。テスト中でも活動はあるんだったよね。そっか。それで一位は凄いな」
たぶん芹先輩のことでしょうか。
一学期の期末は一位でしたもんね。
「そうだ。どうせだから、一緒に帰ろうよ。勉強終わるころだと暗くなってるだろうし」
お断りの言葉を言おうとしたら、真琴が私の腕をつかみました。
「その方がいいよ」
「えっ? 真琴」
「ぼくらは寮ですぐそこだから良いけど、途中暗い道通るだろう?」
真琴が真剣な目で言うので、仕方なく日向先輩にお願いすることになりました。
その間も真由ちゃんは図鑑に夢中。
すごい集中力ですね。
わけてください。
「少し司書さんのところに行ってくるから、また後で」
「はい」
軽く手を振って日向先輩が奥へ行きます。
「真琴…」
「だって、心配なんだよ。今までだって色々あったし」
「んんん、それは否定のしようもないけれど」
「車で送るって言ったって陽向はめったなこと意外は乗らないし」
「送迎されるような仕事してないって」
そもそも補佐なんですから。
「ところで真琴。そろそろ本当に勉強しようよ」
「うん、そうだね」
期末テストなので範囲が広いんですよね。
公式を書きながら、またため息が漏れました。
パタンと本を閉じる音がして、顔を上げると真由ちゃんがもう一つの図鑑を手にしています。
え…もう、一冊読んだんですか?
「……すごい速さだね」
薄い図鑑とはいえ、三センチほどの厚さはあります。
「聞いたことのない言葉を時々いうから、びっくりするんだけどね。ああいう図鑑で覚えた名前みたいだった。なんとかライトとか言ってたけどさっぱりわからない」
「なんとかライト?」
「前半忘れた、鉱石の名前なんだって」
確かライトとつくのは結構あったような気がします。
小さい声で二人で笑って、夢中で図鑑を読んでいる真由ちゃんを見ました。
「ところで陽向」
「なに?」
「これ、わかる?」
「……えーと」
「ここ抜けてるよ」
日向先輩が戻ってきてすぐに教えてくれました。
「あ、あぁなるほど」
真琴が頷いて書き直します。
「あ、あぁなるほど」
真琴が頷いて書き直します。
黙々と問題を解いてわからないところを日向先輩に聞くのですが。
問題を解いている間、横からの視線がすごいです。
じっと日向先輩に見つめられてます。
ちらっとそちらに視線をやると、笑顔が返ってくるのでノートか教科書だけに視線を落とすようにしているのですが、集中しづらいです。
落ち着かないことこのうえなし!
「日向先輩も勉強をしたらどうですか?」
「家に帰ってやるから、大丈夫」
「あの」
「ん?」
「見ないでもらえますか」
「どうして?」
「集中できません」
「じゃあ、手を握っててもいい?」
「だめです」
「じゃ、見るくらいいいじゃない」
お願いですから、集中させてください!