第百二十六話 警戒しすぎです
リビングにあるテーブルには椅子が四脚です。
なのでキッチンから椅子を一脚持ってきて食べようと思っていました。
途中で父に龍矢さんから電話がかかってきまして。
後で誰が来た…という話を聞くのを龍矢さんは嫌います。
なのでたぶん華さんが今日のお客様のメンバーをメールで送っていたのでしょう。
その龍矢さんからの指示で、父と日向先輩甲田先輩がキッチンで。
リビングで私と華さんが食べることになっていました。
えーと。龍矢さん…一応お客様なのですが。
私たちがキッチンでと言ってみましたが、ダメでした。
先輩たちは笑って父とキッチンに行きましたが、お客様に失礼ですよね。
何を考えているのかわかりませんよ、龍矢さん。
食後はリビングのソファに全員座ってプリンを食べました。L字型なのですが、角に父が座ってます。
このプリンはソースが別な袋に入っていて、お好みで調節できるのものでした。
お店に出たら絶対買います。
私が食べたのはイチゴプリンの練乳ソースでした。
練乳が甘すぎない味になっていて、美味しかったです。
「甲田先輩、いつの間にプリンを持ってきてたんですか?」
「あぁ、店で着替えに行った時にね。あからさまに箱に入ってると陽向ちゃん遠慮するだろうなって思ったから、保冷バッグに入れて持ってきた」
トートバッグだと思ってたあれですか。
見せてもらったら、中は保冷用に銀色です。
「って、何で名前で呼んでるんだよ」
日向先輩が甲田先輩をギロッと睨みますが、やはりどこふく風でニコニコ笑っています。
「だって水崎さんだと三人いて、誰だかわからないでしょう」
「あ、華さんは名字“榊”ですよ」
「あ、そうなんですか」
「旧姓は水崎だからね。今でも返事しちゃう時はあるかも」
水崎だった時の方が、まだ長いですもんね。
「くあー! あと十年早く生まれたかった!」
甲田先輩が叫んでいますが、十年早く生まれても無理だったような気がしますよ。
華さんに伸されているイメージしか浮かびません。
龍矢さんにねじ伏せられてたかも?
想像して思わず笑ってしまいました。
「修学旅行ドイツだったんだってね」
父が話題をさくっと変えてきました。
ん? 何か変な話してましたでしょうか。
その後は、ドイツでの出来事を再びテレビで写真を見ながら話を聞いて。
「お茶淹れてきますね。先輩たちはコーヒーで良いですか?」
「うん、ありがとう。手伝おうか?」
「いえ、大丈夫です」
食べる前にコーヒーメーカーのスイッチを入れておいたのですぐに飲めます。
二人分のコーヒーを淹れて、その他三つの湯飲みにお茶を淹れてを持って行きます。
私たちの湯飲みに先輩二人はキョトンとした顔で瞬きしました。
「緑茶?」
「色が違う」
「ほうじ茶です」
私たち三人がほうじ茶を啜り、同時にプハァと息をつくと甲田先輩と日向先輩が顔を見合わせていました。
「家族だな」
「家族だね」
三人が同じ顔で嬉しそうに顔を上げたと後で先輩たちに教えてもらいましたけど。
だってほうじ茶、美味しいですよ?