第百二十五話 二日目は美味しいの法則
家に着いて華さんに甲田先輩を紹介すると、私のお姉さんだと思った甲田先輩が手を握ってアピールを始めました。
うん。年上が好みですか?
でも、後で怖いですよ。
特に助けず、私はキッチンに入ります。
本気を出せば、華さんは甲田先輩を床に伸すことができますので。
使う材料を台に置き、残りを冷蔵庫に入れて足りないものを取り出します。
シチューのルーは小麦粉からです。
普段は手抜きで市販のルーを使うんですけど。
ま、休日くらいはと思いましてバターと牛乳を出します。
最初の頃は良く小麦粉をダマにしてしまい、悔しい思いをしたものです。
「へえ。小麦粉から作るんだ? 手慣れてるね」
日向先輩が野菜の皮むきを手伝ってくれます。
さすが自炊派。上手です。
「甲田先輩、華さんを口説いている暇があったら手伝ってください。それに今のうちに引いた方が良いですよ」
まぁ、大抵、華さんに会うと男性はああなります。
そういえば、日向先輩は普通でしたね。
驚いてはいましたが。
「同性がお好みですか?」
日向先輩を見上げると鋭い視線が帰ってきました。
「口説いてる女の子から聞こえてくる言葉とは思えないんだけどな」
女性が好みなら、美しい華さんへと行かないのは何故でしょう。
「言いたいことはわかるけどね。確かに華さんは美しい人だと思うよ。君のお父さんもすごい美形だったし。どんな家系だよって心の中でツッコミいれたくらい」
父と華さんのご両親の写真をみたことがないので、美形なのかは知りませんけど。
「僕はね。一途なんだ。好きな人ができたら、他はいらない」
包丁を扱っている時に耳元で囁かないでください。
危うく指を切るとこだったじゃないですか。
「ちぇ…」
小さく呟きながら甲田先輩がキッチンに来ました。
「既婚者だったとは残念」
心底ガッカリといったような声でキッチンにある椅子に座ります。
既婚者でも構わないとか言い出さなくて良かったです。
「甲田先輩、座ってないでそこからお鍋出してください」
「ふあーい」
大きめな鍋を出してもらいます。
鶏の挽き肉で鶏肉団子を作った後、炒めずに薄いコンソメで煮ます。
そして後でそれご炒めた野菜の中へと投入するのです。
「ただいまー」
玄関から声が聞こえて、華さんが迎えに行く音が聞こえました。
「ん、誰か帰ってきた?」
「父です」
「お父さん…えっ!? いきなり!?」
いきなりの意味がわかりませんが、甲田先輩は興味をそそられたようでキッチンを出ていきました。
「僕も挨拶してくるよ、お邪魔している身だからね」
「はい、どうぞ」
廊下の方から「若っ!」という甲田先輩の声が聞こえました。
ふう。
たくさんを炒めると腕が疲れます。
野菜を大きめに切ったのでよけいに重いですね。
「陽向、ただいま」
父がキッチンに顔を出してくれました。
「お帰りなさいお父さん」
「手伝おうか?」
「大丈夫ですよ。それより手洗いうがいはしましたか?」
「うん、もちろん。甲田君がプリンを持ってきてくれたんだって。後で食べよう」
いつの間に!
驚いて冷蔵庫を見ると、確かにプリンが入っていました。
「それねー、まだお店に出してない新作のプリンなんですよ。お試しでもらったやつ」
業者さんからもらったそうです。
なるほど、父はプリンで懐柔されたのですか。
四苦八苦しているのに気づいたのか、日向先輩が代わって炒めてくれました。
後は鶏肉団子ごとスープを入れてルーを入れれば完成です。
そして早めに作ったのには意味があります。
一度冷まして、味をしみこませるためです。
カレーなど煮込み料理が二日目に美味しいのは、一度冷めてから温め直すからだそうですよ。
冷える過程で味がしみこんでいくのだとか。
まぁそのまま食べても美味しいのですけど、今日は時間があるということで、そうしてみました。
六時半か七時くらいに温めて食べることにしましょう。