第百二十二話 家族です
パイは大変美味しくいただきました。
途中、晃先輩が作ったスープもいただき、お腹がいっぱいです。
全部を食べきれなかったので、お土産にいただいて帰途につきました。
「また遊びにおいで」
理事長はわいわいと大勢で食べるのがお好きだそうで、何故か指切りをしました。
確かに楽しかったですけど。
父に今日あったことを話して、理事長からのお誘いのお話をしました。
「そうだね、来月の休みがわかったら教えるよ」
ニコニコと笑って私の頭を撫でます。
「大丈夫? 学が行っても」
「ほとんど男性ですし、後は真琴と真由ちゃんですから」
「その二人は?」
「大丈夫だとは思うのですが、まさか目隠しするわけにもいきませんし」
華さんが心配そうに私をみました。
その心配も仕方ありません。
私が小学生一年生の頃。
とても仲が良かった友達のお宅に父とお呼ばれしたことがありまして。
その時、他のお友達の親御さん数名も来ていました。
そこで父が登場したことで、奥様方の目がハートマークになり、旦那さんをほったらかしで父に始終話しかけ、父子家庭だと知ると次の日から押し掛けてくるやら、怒った旦那さんが乗り込んでくるやらで。
とんでもないことになったことがあったのです。
今思い出しても、恐ろしい出来事でした。
あの事件のせいで、そのお友達とも疎遠になってしまいましたね。
それ以降、学校どころかお友達の家にも父はでかけられなくなってしまったのです。
華さんが龍矢さんと結婚してからは、龍矢さんが保護者代わりで出かけることになっていました。
運動会や文化祭、三者面談もすべて龍矢さんでしたので、そういう日の朝は父の寂しそうな顔をみて出かけていました。
龍矢さんが動画や写真を撮ってくれて、後で家で観るのです。
寂しくないのかと和香に聞かれたことがありましたね。
龍矢さんが来てくれますし、家に帰ったら褒めてもらえるので寂しくないと答えると、それ以降同じことを聞かれることはありませんでした。
父が不在の時は、華さんが来てくれますし夜勤じゃなかったら龍矢さんも来て三人でご飯を食べれます。
いつも誰かがいてくれるのは贅沢なことじゃないでしょうか。
この家族の輪に、いつか私の旦那様が加わるのでしょうか。
さっと顔が浮かびましたが、消去消去。
「真琴と真由ちゃんには以前写真を見せてますよ。大丈夫だと…思いますけど」
押し掛けてくるような子じゃないですし。
「それならいいけど」
お土産にもらったパイを食べながら華さんは心配そうにしています。
「ピザを作って食べるんですよ。今から楽しみです」
理事長は十二月忙しそうですから、来年になっちゃいますかね。
それでもとっても楽しみです。
「ところで陽向のテスト結果も良かったし、何か欲しいものある?」
「えっ」
「順位上がったでしょう。少し高めでも良いよ。三人で奮発するから」
「いえいえ、これからクリスマスもありますし」
「遠慮しないの」
「本当ですか?」
「ささ、何が欲しいの?」
「ええとですね。龍矢さんの故郷に行きたいです」
その言葉に華さんは息をのみました。
龍矢さんの家族は遠い北海道に住んでいます。
ご両親はすでに亡く、今現在は父方の祖父母がいるだけです。
何度か行ったことがあるのですが、孫の様にかわいがってくれました。
龍矢さんが孫なんですけどね。
ここ数年会いに行けていないのです。
「龍矢さんが夜勤で行けないなら、私たちだけで行きましょう。もちろん冬休みになっちゃいますけど」
「陽向…」
「お父さんも連れて行くと、お金かかっちゃいますか」
「それは…陽向のご褒美にならないじゃない」
「いいえ、ご褒美ですよ。だって北海道に行けるんですから」
寒いところへ行くのは大変ですけど。
でもあの優しく温かい家へ。
また行きたい。
本心です。
「昨年はシフトを正月に入れたんだ。今年は違うやつに入ってもらうさ」
「龍矢さん、お帰りなさい。帰ってきたのに気づきませんでした」
リビングに入ってきた龍矢さんが、何だかとても泣きそうな顔をしていました。
「どうしたんですか龍矢さん」
「いや、何でもない。それより学の方の休みが問題だろう」
「今の時期からでも飛行機の予約間に合いますか」
「よし、陽向は学に電話して、正月の休みをもぎ取って来いって伝えて。私たちは飛行機の予約取っておく」
「お願いします」
飛行機の予約は大丈夫でした。
父は何やら慌てて電話を切った後、しばらくしてからかけなおしてきて正月休みをもぎ取った! と華さんに伝えて欲しいと何故か息を切らせて言っていました。
「これで、冬休みはみんなで北海道ですね!」
「そうだね、ありがとう陽向」
「私のご褒美なんですから、有難うをいうのはこちらです。有難うございます華さん、龍矢さん」
華さんと龍矢さんが交互に頭を撫でてくれて、ついには華さんに頬にキスをされました。
「んもぅ、陽向大好き」
「私も華さん大好きです」
龍矢さんにもパイを出して、父が帰ってくるまで家族団らんを過ごしていたのです。
それを帰ってきた父が見て、拗ねてリビングの隅に体育座りをしたのはご一興。
頬にキスをすることで機嫌を直してもらいました。