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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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第百二十話 修学旅行ですよね?



 明日から二年生が修学旅行だという日。

 大型家電量販店で日向先輩と偶然会いました。


「陽向?」

「え? あ、日向(ひゅうが)先輩。修学旅行の買い物ですか?」

「うん、まあね。陽向は?」

「待ち合わせの時間つぶしです」

「待ち合わせ? 誰と」

「父ですよ。仕事が終わったら一緒に外食に行くんです」

「そう」

 もちろん個室ありのお店ですよ。

 ファミレスに行くと大変なことになりますからね。


「日向先輩は何を買いに?」

「僕はデジカメのSDカードを買いに来たんだけどね。新しいの見つけて悩んでるところ」

「一眼レフとかですか?」

「うーん。一眼レフは荷物の場所を結構取るからね。腕に自信があるわけでもないし、無難にデジカメだよ」

「ドイツでしたよね? お城とか行くんですか?」

「うん、お城好き?」

「はい」

「そう。それじゃいっぱい写真撮ってくる」

「楽しみにしてます」

「その笑顔を写真に撮りたいくらいだけどね」

「え?」

「そういえば、内部生の人ってさカタログで買うって聞いた?」

「あぁ、一部の方はそうらしいですね。でも全員じゃないですよ」

「ふうん。僕はどうしても実物を見て買わないと安心できないんだよね。あ、これどうかな」

 デジカメを手に取って私に見せました。

「陽向」

「はい?」

「メルアド教えて」

「は?」

「携帯で撮った写真なら、撮ってすぐに送れるなって思って」

「はあ。いえ、帰ってきてからでいいです」

 ちっと舌打ちが聞こえました。

「日向先輩」

「メルアドくらい、教えてよ」

「はぁ、まぁ良いですけど。そんなにメール送りませんし返事もあまりしませんよ?」

「うん、はい携帯出して」

 赤外線通信をしようとしたときでした。

「ちょっ待ってください、それ」

 日向先輩の携帯の待ち受けが私の写真でしたっていうか、これいつ撮ったんですか!?

「あ、これ? 華さんがくれた」

 華さん、何やってるんですか! 私に許可なくあげないでくださいよ!

「か、変えてください、それ!」

「やだ」

「なっ」

「僕の癒しを取り上げるつもり?」

「癒しって」

「陽向。僕が本当はどれだけ君に会いたいかわかってないよね。毎日会いたい、顔がみたい声が聴きたい。わかる?」

「わ、わかりません」

 日向先輩は少し寂しげに微笑みました。

「修学旅行、行きたくなくなってきたな」

「楽しんできてください」

「一週間も陽向に会えない」

「十一月のドイツって寒いんでしょうか」

「陽向、よそごと言ってないでこっち見て」

「明日は何時に集合なんですか?」

 日向先輩は静かにため息をついた後、赤外線通信で交換してポケットに携帯をしまいました。

 あ、そういえば電話番号も送信しちゃいましたね。

 こちらにも日向先輩の電話番号が登録されちゃいました。


「陽向」

 呼ばれて顔を上げると、両手で頬を軽く包まれました。

「ひゅう…」

「僕のこと忘れないでね」

「一週間で忘れませんよ」

「一緒に連れていきたいなあ」

「修学旅行は二年生です」

「一週間だよ? 七日も会えないなんて」

 絶望的な顔をしてますけど、別に一週間たったら戻ってくるでしょうに。

「陽向、僕が帰ってくるの、待っていてね。必ず君のもとへ帰ってくるから」

 あの、修学旅行ですよね?


 何かファンタジーみたいなセリフになってますけど。


「すみません、日向先輩。もうすぐ時間なので、待ち合わせ場所に行きたいのですけど」

「そう。仕方ないね」

 頬から両手が離れて、ホッとした私は大変油断していました。

「陽向」

 いきなりギュッと抱きしめられて、抵抗する前に離されます。

「っあ」

 どっ、ここをどこだと思っているんですか!

 大型・・家電量販店ですよ!

 他のお客さんの視線がっ。


 私は慌ててお店を出ました。視線が痛い痛い。


 後ろで日向先輩が何か言っていたようですが、聞かずに待ち合わせ場所へと急ぎました。

 父より先に着いていないと、めんどうなことになります。

 目印の銅像前でホッと息をつきました。


 それが日向先輩から逃げられたことでなのか、父がまだ到着していないことになのか。

 自分でも混乱していて、その場にしゃがみこみました。

 そして、気づいてしまったのです。


 日向先輩に頬を両手で包まれた時に。

 逃げ出そうと思わなかったことを。


 慣れ? 慣れですか?

 慣れですよね?

 うん、慣れです。


 そういうことに…します。



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