第百十八話 美味しい差し入れの秘密
今日も晃先輩から差し入れをいただきました。
ただいま生徒会全員ソファに座って休憩中です。
可愛らしいカップケーキなんですよ。
小さい陶器のカップに入っているんです。それぞれきれいな絵が描かれていました。
チョコチップやアーモンドが入ったプレーン味とチョコ味、さらに私の大好きな抹茶味がありました。
紅茶とともにいただきます。
無駄に高そうなティーカップを使うのにも慣れてしまいました。
うん、本当に慣れとは恐ろしいものですね。
気を付けよう。
抹茶味を頬張っていると、中にチョコレートが入っていてとろりと舌の上に落ちてきます。
うーん、美味しい!
どこのお店のものなのでしょう。
この前芹先輩が差し入れしてくれたケーキは有名店のでしたし、静先輩の差し入れだったゼリーが入った箱には有名パティシエの似顔絵が描かれていました。
箱。
そういえば、カップケーキが入っていた箱はどこへやったのでしょう。
キョロキョロと見回すと、台の上に畳んで置いてあるのが目に入りました。
「どうしたの、陽向ちゃん」
「あ、いえ。箱を」
「箱?」
芹先輩がカップケーキをスプーンで口に入れたのを見て、齧り付いたのは私だけだったことに気づきました。
あれ? でも以前カップケーキが差し入れだったときは、齧り付いていたはずです。
「芹先輩?」
「なぁに? 陽向ちゃん」
「何でスプーンで食べてるんですか?」
「え?」
「え…あの」
「あ! ああ。もしかしてメモ見なかった?」
「メモ?」
「うん、これ」
二つに折りたたまれた紙を見せてくれました。
「中にソースが入っているので注意…なるほど」
「開けたのが陽向ちゃんだから、てっきり読んだと思ってた、ごめんね」
「いえ、それは構わないんですけど。これ手書きですね。サインが入ってますけど、どこのお店なんですか?」
「あれ? 陽向ちゃん知らなかったっけ?」
「何でしょう?」
芹先輩ははサインを指しながらニッコリと笑ってその名前を口にしました。
「“トオル・イズミ”理事長の名前だよ」
「ええっ!?」
驚いてそのメモを見ていると、静先輩が小さく笑いました。
「晃が持ってくる差し入れのほとんどが理事長の手作りだ」
「は?」
今まで食べたのも?
てっきりどこかお店のものかと思っていました。
「食べている時に言っていたことを伝えると、とっても喜んでくれるよ」
「そうなんですか、私、てっきりどこかお店のだとばかり思っていました」
「あぁ…それ伝えておくね。きっと喜ぶと思う」
まさか理事長の手作りだったとは、わかりませんでした。
思い返してみれば、箱はシンプルだったような気もします。
「この前のトルティーヤはもう少しパリパリにしたかったらしいんだけど、上に載せたソースが多かったのかシットリしちゃって残念がってたって」
でも端っこがパリパリで美味しかったですよ?
「ちょ、ちょっと待ってください。それじゃ、この前…晃先輩が差し入れに持ってきてくれたロールケーキやアップルパイも!?」
「そうそう。アップルパイ美味しかったね」
「あぁぁぁ。それで次のアップルパイはシナモンが少なかったのですね!」
実は私はシナモンが若干苦手なのです。
食べれないということはないのですが、大量に入っているとがっかりしてしまいます。
次に食べたアップルパイは、ほどよい加減で美味しかったのを覚えています。
私の反応を理事長に伝えたのでしょうか。
「なんだか、お抱えパティシエみたいだよね理事長って」
「趣味らしいが、これで食っていけると俺は思うな」
趣味…これが趣味!?
「スイーツだけじゃなくて料理も美味しいって晃が言ってたよね」
貴雅先輩が優雅に紅茶を飲みながらいいますけど。
もしかして料理もプロ級なのですか。
「何かね、女性に喜んでもらうためのことは努力を惜しまないそうだよ」
他にも色々ありそうですね、理事長って。
「結局最後は、自分より女子力が高すぎだと言われて別れてばっかりだがな」
晃先輩が生徒会室に入って来て、苦笑します。
「現在フリーだけど、どう? 水崎陽向ちゃん?」
「は?」
振り返ると晃先輩の後ろから理事長が現れて、私たちは慌てて立ち上がりました。
「いくつ年上だと思ってるんだ」
晃先輩が理事長にため息交じりに言っていますが、社交辞令のようなものだと思いますよ先輩。
「お久しぶりです理事長」
静会長の後にお久しぶりですと全員で声をそろえて言った後、礼をします。
「やぁ、久しぶり。ちょっと高等部に用事があったのでね、顔を出してみたよ」