第百十六話 恋するものは時に妙な力を発揮するそうです
テストも無事終わり、テスト用紙も帰ってきて上位十名が張り出されました。
一年生は相変わらず真由ちゃんが一位です。
私は十二位。真琴が十八位でした。
お互い上がったので、握手をして喜びました。
「あと二つで十位だったね。おしい」
「真由ちゃんは不動の一位だね、さすが」
速水君が三位に入っていました。
風紀委員の仕事ですでに二組にいませんでしたので、おめでとうが言えませんでした。
生徒会室に行く途中で二年生のところも見に行くと、なんと日向先輩が一位で芹先輩が二位、修斗先輩が三位でした。
日向先輩と芹先輩のその差、わずか二点。
やっぱり脳の引き出しを見せていただきたい。
なんて思っていると、肩に重みが加わりました。
「陽向、みっけ」
「日向先輩、重いです」
日向先輩が私の肩に顎を乗せています。
「一位とったよ。褒めて」
「おめでとうございます」
「きちんと僕を見て言ってよ」
「顎乗せてるのは誰ですか」
「僕」
「これから三年生のところも見に行くので顎をおろしていただけますか」
「やだ」
「肘鉄くらいたいですか」
「いいよ」
「……本当にやりますよ?」
「そのまま捻るけどいい?」
「いやです」
「ちょっと痛いだけだから」
耳元で囁くのやめてください。
「痛いのいやです、もういい加減顎どけてください」
私の横でこんなやりとりに慣れた真由ちゃんと真琴が笑いながら見ています。
助けて欲しいのですが。
「僕も見に行く」
「じゃあ、顎どけてください」
「やだ」
「歩きづらいです」
「やだ」
どこの駄々っ子ですか?
キリがないので、少し膝を落とすとカクンとなって日向先輩が私にもたれかかるような体勢になりました。
どれだけ体重かけてるんです、肩こるじゃないですか。
「さ、行こう」
真由ちゃんと真琴に言って、三年生のフロアへと行くために階段を降ります。
ちらっと振り返ると日向先輩はしっかりとついてきていました。
三年生の一位は晃先輩でした。
こちらも不動ですね。
二位は静先輩。東雲先輩は四位でした。
「生徒会はみんな上位だね」
日向先輩は顎に手を当てて唸りました。
「それは私に対する嫌味ですか」
「陽向、それならぼくもだよ」
真琴が苦笑します。
「一年生の一位って誰?」
「真由ちゃんですよ。ちなみに満点です」
「へぇ、そりゃすごい」
全然すごそうに言わないで、ふふふと笑いました。
ご自分も後少しで満点だったからですか?
「ちなみに、陽向は何位?」
「…十二位です」
「すごいね」
一位の方に言われましても。
「泉都門の二十位以内は結構なもんだよ」
嬉しいような嬉しくないような。
まぁ平均点以上の点数は取れましたし、自分ではよくやったなとは思いますけど。
「ねえ陽向。ご褒美頂戴」
「はい?」
「一位を取ったご褒美」
ニッコリ笑って自分の唇をさします。
「……」
私は無言でポケットに入っていたキャラメルを取り出し、袋を破くとそのキャラメルを口に押し込みました。
「いべべ。キャラメルって角が固いんだから、押し込まないでよ」
「はい、ご褒美です」
「違うご褒美が欲しかったな」
「はーい、真由ちゃんにもご褒美」
真由ちゃんにはイチゴミルクの飴をプレゼントです。
「そして真琴にはおやつ」
甘露飴です。
「ご褒美になってないよ、陽向」
おやつをもらった真琴が笑いながら飴を食べます。
「いいの。おやつはおやつ。ご褒美はご褒美です」
「ならば、俺様にもよこせ」
とっても久しぶりに聞いたような気がします。
晃先輩の登場でした。
「あ! 晃先輩、一位おめでとうございます」
いつもなら不敵に笑う晃先輩が無言で口を開けました。
ここに入れろと。
そういうことですね?
ため息をついてキャラメルと入れようとしたところ、日向先輩が私から取り上げて晃先輩の口に放り投げました。
「むぐっ」
眉がきゅっと寄って、晃先輩は日向先輩をギロッと睨みます。
「あっ、陽向! 僕にも甘いもの頂戴。っていうか慰めて!}
横から貴雅先輩が抱きついてこようとしました。 日向先輩が慌てたように、私から貴雅先輩を引き離します。
「なんですか? もしかしてまたフラれたんですか」
「ううう」
メソメソという音がつきそうな雰囲気で貴雅先輩が泣いていました。
「私の中のイメージを覆すんじゃなかったんですか?」
「だって、寂しい」
「知りませんよ」
「陽向、冷たい」
「四日ってなんですか、四日って!」
つい先日付き合い始めたと聞いたばかりですのに。
「やれやれ王子様もかたなしだな」
「勝手なイメージを持つ彼女らが悪い」
「演じてる貴雅先輩だって悪いですよ」
「演じてないもん」
「“もん”じゃないでしょう」
何だか最近貴雅先輩が幼児化しているような気がするのですけど。
気のせいでしょうか。
「慰めてー」
「しりません」
「陽向ー」
また抱き着こうとしたのを、日向先輩が阻止してくれます。
「君、邪魔」
「陽向に抱き着く権利は僕にあります」
「いや、俺様だ」
「僕が」
「誰にもありません!!」
この世にバリアがあるならば、張っておきたいくらいです。
だれか、開発してくれませんか?