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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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第百十四話 日常は戻ってきましたけど



 やっと普通に戻れると思ったのもつかの間。

 中間テストがやってきました。


 早く家に帰れるのは嬉しいのですが、毎日日向先輩が自宅玄関前までついてきます。

 不審者の騒動は一応終わりましたから、もう大丈夫ですと何度も言いましたのに。

「心配だから」

 などと耳元とで囁くのです。

 囁くのはやめてくださいと何度もお願いしたのですが、言うことを聞いてくれません。


 今日も今日とて、玄関前で中へ入るまで見送られました。


「今日も一緒に帰ってきたの?」

 華さんが笑いながら言いますが、笑いごとではないのですよ。

 私たち生徒会はテスト中も仕事があるのですから、皆さんよりは若干遅く帰宅します。

 それなのに、生徒玄関で待っているんです。

 私を待たずに家に帰ってテスト勉強すればいいんですよ!

 なんて言いますと、帰ってくる答えは「僕が図書委員長だって忘れた?」何です。

 テスト期間中高等部図書室は閉鎖されます。

 中高とテスト期間が同じなのでどちらの図書室も閉鎖されるのですが、泉都門大図書館が開いているので、そちらでテスト勉強が可能となっています。

 その閉鎖されている高等部図書室の鍵を持っているので、そこで勉強をしていたよ? ということなのでしょう。

「本当は朝も迎えに行きたいくらいなんだけど、何しろ毎朝新聞を職員室に取りにいく仕事があって。図書室は閉鎖されるけど新聞は取っておかないといけないんだ」

 そのために朝早く登校されるので、一緒はできないとのことです。

 一度新聞をしまってある場所を見せていただいたのですが、年別月別にきちんと分けられていて、指定すれば図書室内であればいつでも閲覧可能になっていました。

 図書委員長のお仕事らしいです。

 そのまま図書室でお勉強かと思いきや「詰め込んだところで意味ないよ」だそうです。

 ホームルームが始まる時間まで読書時間と決まっているとのこと。


 テスト直前に読んだところが出ている時だってあるんですよ!

 

 次の日の帰り道。

「そういえば、一学期のテストは何位でした?」

 なんて聞かなければ良かったと後悔しました。

「あぁ。三位」

「…は?」

「三位。一条と更科の後。一位狙っていたんだけどね」

 あははと笑うしかありません。

 皆さんの頭の引き出しに、どうやって知識が詰め込まれているのかぜひ見てみたいものです。

「陽向は?」

「言いませんよ」

「僕のを聞いておいて、それはないんじゃない?」

「言いません」

「ふうん。まぁいいけど」

 低い声になったので顔を見上げるとニッコリ笑顔で返されました。

 よく分からない先輩ですね。


「今日は陽向の家に寄っていってもいいかな」

「だめです。テスト勉強をしないと」

「教えるよ?」

「自分でやりますから」

「もう少し一緒にいたいんだけどな」

「一人で勉強をします」

「ねえ、陽向」

「だめです」

「陽向」

 ぐいっと腕を引かれてあやうく抱きしめられそうになりました。

 その場にしゃがみ込むと、上からため息が聞こえます。

「往来でやめてください」

「人目がないところだったら良いんだ?」

「そういう意味ではありません」

「陽向は僕のことが嫌い?」

「嫌いと言ったらもう来ないんですか」

 答えが返ってこなかったので上を見上げると、悲しそうな視線とばっちり目があってしまいました。

「嫌い?」

 そんな切なげに見つめないでください。

 腕をつかんで立ち上がらせてくれましたが、私は視線をそらしました。

「先輩は急すぎます」

「我慢できない」

「あの、ですね…」

「いつも傍にいたいし、いつも声を聴きたい。これでも抑えているんだけどな」

「全然抑えてませんけど」

「もっと陽向といたい」

「私には私の時間というものが…」

「陽向」

「ちょっ、近い! 近いですよ先輩」

 両腕を捕まれて万事休す! と思った時でした。

「陽向?」

 ハッとして声のした方を見ると、父が…父がポカンとした表情で立っていました。

「あっ、えっと」

「陽向、誰?」

 日向先輩が私の腕をつかんでいた手に力を入れたので少し痛いです。

「ち、父です」

「…えっ? お父さん?」


 しばらく沈黙が続いた後、父はゆっくりと近づいてきて何も言わずに先輩から私を離しました。



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