第百十三話 都市伝説を聞きました
「見つかった」
その言葉で座っていた人も立ち上がって貴雅先輩の元へ集まります。
「カーテンを受注していた会社から、さっき連絡があって、確認した」
そういって貴雅先輩はパソコンを起動させて、とあるサイトを開きました。
「これは…」
都市伝説を扱うサイトのようで、泉都門学園についてかかれていたのです。
学園祭の時に配られる地図が載っていて、その中央の三つの棟についてかかれていました。
泉都門はそもそも敷地が変わった形をしています。
きっかり六角形になっていて、その中央に三つの扇形の棟が建てられており、それぞれ名前があって運命棟・宿命棟・天命棟となっています。
それのどれかが理事長がいる棟なのですが、一部の人以外どの棟にいるのか知らされてはいません。
そもそも、他二つの棟も何に使われているのかも知らないのです。
そのサイトには三つの棟についてかかれており、地上に入り口がないことが記されていました。
泉都門にある三種の神器がそれぞれ納められ守られていると書いてありました。
「入り口、ないんですか」
思わず晃先輩に聞いてしまうほど、私たちは三つの棟について何も知らされていません。
知らなくとも学園生活に支障はないのです。
「ないわけないだろう」
それもそうです。
「入り口の場所は教えられないが。それで、こいつが入り込んだやつだと何故わかる? もしかしたら泉都門の生徒かもしれないぞ」
晃先輩が言うと、貴雅先輩が新たにサイトを開きました。
「これ」
そこには若い男性がピースサインで写っている写真が載っています。
「あ。ここ、泉都門の中庭ですね」
写真の下を見ると、潜入成功と書かれています。
「調べてもらったら、同一人物だった。どうやら、友達だけに見てもらうつもりが、全員閲覧のままで投稿したらしい」
全員が怒るより前に呆れました。
「三種の神器について調べるために入ったのか? そんなものあるわけないだろう。どこの宗教だ。うちは学園だぞ?」
警察にはすでに知らされているそうで、この都市伝説のサイトもそのうち閉鎖になるでしょう。
「それで、そのカーテン受注の会社のトラックに乗ってきたのか?」
「いや、この写真を見た若い社員が上司に言って、教えてくれたみたい。この人物が乗ってきたのは、カフェにおろしている、精肉店の冷蔵車」
「なるほどー。それでダウンジャケット着てるんだ」
芹先輩がいうように、軽いダウンジャケットを着て写っていました。
「精肉店には連絡を入れた。答えによっては取引を停止する」
静先輩が生徒会室に入ってきて、険しい顔で言いました。
「そんなに泉都門を知りたかったら、受験して入るくらいの気概を見せて欲しいもんだ」
生徒会長の椅子に座って、静会長は深くため息をつき背もたれに体を預けました。
「ふうん、ってことはボクらと同じくらい?」
「十六だそうだ」
全員でまたため息です。
「すべてに連絡を終えた。普段通りに戻っていい。お疲れさん」
お疲れさまでしたとそれぞれ言い合って。席に着くものの脱力してやる気がおきません。
テスト前に解決できて良かったとは思いますが、何だか疲れがどっと来る感じです。
「取り引きしている会社にも、通達を出しておこう」
「風紀委員も大変だったろうに、すまないな」
「こっちは人数がいるし応援団の助っ人もいたからな。あまり寝てないんだろう? 今日はもう休んだほうがいいぞ」
「ああ」
まだ早い時間ですが、今日の仕事は終わりということにして早めに帰ることになりました。
全員で生徒会室を出てそれぞれ帰途につきます。
私は車で迎えに来てもらったので、帰りも車となります。何しろ登校時間よりずっと前に生徒会室へと集合していたので、寝ぼけ眼の自転車は危険と言われて、そのまま車で登校していました。
明日からはまた自転車通学ですね。
いっそのこと毎日車で登校すれば? と芹先輩にいわれましたが、さすがにお断りしましたよ。
帰りにスーパーによってもらうのも気がひけます。
玄関を出ると車がすでに待っていました。
「陽向」
車に乗る寸前に声をかけられて振り返ると日向先輩が立っていました。
「お疲れさま、解決したんだってね」
「はい。一応。応援団の皆さんにも後日お礼に行きますね」
「陽向」
「はい?」
「……うん、また明日」
「はい。また明日」
私が乗り込むと日向先輩がドアを閉めてくれました。
頭を下げると手を振って見送ってくれます。
車が出発してから後ろを振り返ると、まだ立っているのが見えました。
胸がきゅっと痛くなって顔を前に戻しました。
明日から通常に戻ります。
普段通り。それにつきますね。