第百十話 不穏な空気です
プリンを食べた後、外を見るとさすがにもう人が集まったりはしていなかったので日向先輩は帰って行きました。
とてもご機嫌な様子でしたが、プリンが美味しかったからでしょうか?
夕食までには少し時間があったので部屋に戻っていると携帯にメールが届いているのに気づきました。
見てみると真琴からで、件名が“急”となっていました。
マナーモードにして部屋に置いていたので気づきませんでした。
内容を読むと、先輩たちが生徒会室に来なかった理由が書かれていました。
不審者の侵入。
セキュリティが高い泉都門学園ですよ、そんなことあるのでしょうか。
真琴に電話してみると、詳しくは知らないようでした。
〔生徒手帳を使って入ったらしくて、今、調べている最中なんだって。もしかしたら、明日は休みになるかもって会長が〕
なるほど。それで生徒を急いで帰していたんですね。
「なぜそれがわかったの?」
〔実は最近になってわかったことなんだけど、泉都門を転校した生徒が生徒手帳をオークションに出したらしいんだ〕
「はぁぁ?」
〔退校の手続きがなされているはずだから、手帳も使えないはずなんだけど〕
「入れたということは、ハッキングされた可能性があると?」
〔うん。それでテンヤワンヤになってるみたい。ぼく等は生徒会として明日は登校になると思う〕
「うん、わかった」
〔それから、明日は車が迎えに行くからね〕
「了解。寮にいるとはいえ、真琴も気を付けて。真由ちゃんにも伝えてね」
〔うん、ありがとう。それじゃ明日〕
通話を切って机の上に携帯を置くとため息が漏れました。
泉都門には良家の子女がたくさんいます。
不審者がいると大変危険ですよね。
となると風紀委員も走り回っているのでしょう。
明日の用意をしておこうと思い立ったとき、またメールが届きました。
今度は芹先輩からでした。
メールの内容は明日全校生徒が休みになったことと、生徒会は登校することになっていることが書かれていました。
泉都門の制服を着ている可能性があるので注意することと赤く色づけされた文字で書かれていました。
もしかして、今も泉都門の敷地にいる可能性があるのでしょうか。
少し考えた後、防犯グッズを鞄に入れておくことにしました。
龍矢さんから色々もらっていますからね。
朝、出るときに制服のポケットにも何か入れておくことにします。
実は最近、龍矢さんから首にかける小さなホイッスルをもらいました。
小さくて可愛いデザインなのですが、意外と大きな音がでるのです。
明日は必ず付けていくことにしましょう。
携帯の隣に置いて、明日の用意は完了です。
夕食の手伝いをするために部屋を出て、父が遅い帰宅なので華さんと夕食を取りました。
龍矢さんは今日も夜勤らしいので、華さんはいつも通りこちらへ泊まることになっています。
片づけを終えて部屋へ戻るとまたメールが届いていました。
修斗先輩からで、朝、生徒玄関に迎えに来てくれるようでした。
応援団の男子にも協力を要請したのだとか。
危険ではないかと思うのですが、理事長が許可を出したのなら何か考えがあるのかもしれません。
もやもやしたものを抱えたまま、その日は眠りにつきました。
次の日、予告されていた通り車が迎えに来ていました。
朝の挨拶をして乗り込むと少し緊張した面持ちです。
真山さんというお名前で、いつも迎えに来てくれる方です。
いつもニコニコされていることが多いので、泉都門の不審者の事を聞かされているのでしょう。
いつもが雑だというわけではありませんよ?
今日はトランクまで見られました。
少し真山さんが眉を寄せましたが仕方ないと思ったのか、ため息をつくだけで何も言いませんでした。
守衛さんだって、不審者を見逃したと思われたら辛いですもんね。
生徒玄関まで送ってもらって、お礼を言ったあと降りるとメールの通り修斗先輩が立っていました。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはよう陽向ちゃん」
後ろに風紀委員の方も立っていました。
「単独で動かないように通達されてるんだ」
なるほど。
二人に挟まれるようにして三人で生徒会室へと向かいました。
そのまま生徒会室に入ってきて、どうやら彼は生徒会メンバーと行動を共にするようです。
先輩たちは二人以上で行動して外へ出かけますが、私たち一年生は生徒会室から出ないように言われています。
出るときは風紀委員を連れていくことと言われていますが、さすがにトイレに一緒にとはいかないですよね。
それとなく言ったところ、もう少ししたら女子の風紀委員も来るとのことでホッとしました。
ということは風紀委員が二人つくんですねと聞いたところ「後三人は来るよ」と言われました。
厳戒態勢ですね。