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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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第百九話 華さんのプリンです


 慌てて家の中に入ろうとした時でした。

 

「陽向ー?」


 華さんが玄関の外へ出てきてしまったのです。

 そして目が合う、日向先輩と華さん。

 現在抱きしめられてはいないものの、ものすごく近い場所に私と日向先輩は立っています。

 近い、近すぎる。

 慌てて離れましたが、華さんの目がキランと光ったのを見逃すはずがありません。

「ひ、日向先輩ありがとうございました」

「あ、ああ。どういたしまして」

「も、もうお帰りになったほうが」

「陽向が家の中に入るまではここにいるよ」

「ぐっ」

 その間にも華さんはこちらへと近づいて来ます。

「家族の人もいるので大丈夫です」

「僕のわがままだから。勝手にさせてもらうよ」

「いえ、ですから」

 ガシッと両肩に華さんの手が乗ってきました。

「ひーなーたー?」

「は、はいいいっ」

「どちら様?」

 私が口を開く前に日向先輩が頭を下げます。

「初めまして。陽向さんと同じ学校に通う日向凛樹ともうします」

「初めまして。私は陽向の伯母で榊 華。良かったら家にあがっていかない?」

 私は驚いて華さんを振り返りました。

「華さん!?」

「学のリクエストでプリン作ったの。食べて行って」

「有り難うございます」

「日向先輩!? そこは日本人らしく遠慮するものでは!?」

「どこの日本人なの、それ。陽向の家族に誘われたんだし、断る理由もないから」

 慎ましやかな日本人を説くと、逆に断る方が失礼に当たると言う日向先輩と真っ向にらみ合いです。

「帰ってください」

「そもそも君の伯母さんに招待されたんだから、君が断るのもおかしくない?」

「華さんは華さんです。伯母さんなんて呼ばないでください!」

「それは失礼。華さんとお呼びしても?」

 その質問は華さんへとされました。

「もちろん。構わないよ。ところで陽向。仲がいいのは良いことだけど」

「よくありません!」

「人が集まって来たから、中へ入ろうか」

 はうっ。

 気づくと野次馬に囲まれはじめていました。

 慌てて中へ入ると、何故か一緒に入ってきた日向先輩に驚いて転びそうになりました。

「日向先輩!」

「あの場所に僕を置き去りにするつもり?」

「それは…」

「中へ入って。陽向は着替えておいで」

「ううう、はい」

 がっくりと肩を落としていると華さんがスリッパを出しました。

「どうぞ」

「ありがとうございます、お邪魔します」

 にこりと笑って日向先輩はリビングへ。私は部屋で着替えることになりました。

 

 着替えてからリビングへ行くと、和気あいあいとなっておりました。

 数分間に何があったんです!?

 

 じとっと華さんを見ると、私の視線に気づいた華さんが笑って座るように言いました。

「はい、陽向の分」

「ありがとうございます…」

まなぶのは冷蔵庫に入ってるから。奥の大きいのだからね」

「大きいの?」

「さすがにバケツプリンは無理で、ボールにしたんだけど」

「……ボールプリンですか…」

 そういえば最近、バケツプリンが食べてみたいなんて言ってましたね。

 本当に作らなくてもいいのに…。

「華さんは弟さんに甘いんですね」

「うん? そうだね」

 華さんは否定もせずに頷きます。

 私がはぁ…とため息をつくと日向先輩は笑いました。

「みんな、父を甘やかしすぎなんです」

「その“みんな”に陽向も入っているとおもうよ、十分じゅうぶんね」

 華さんに言われてぐうの音も出ない私です。

「そっか。それじゃ、龍矢さんの次は学さんが壁ですか?」

「私は除外? まあ良いけど。龍矢の壁を突破してから学のことを考えた方がいいよ」

「華さんも壁になられちゃうと、大変だなぁ」

「一応中立ってことにしておくかな。阻みもしないけど、助けもしないよ」

「なるほど。今までに助けたいと思った人はいましたか」

「泉都門でということなら、いないね。そもそもここ・・へ遊びに来た泉都門の生徒は君が初めてだからね」

「えっ?」

 日向先輩がものすごく驚いた顔をしました。

「誰も?」

「中学の友達はよく来るけどね」

 和香は夏休みに入り浸っていました。

「表まで迎えに来ることはあっても、中へは入らなかったね」

「みなさん寮生活ですし、夏休みは海外へ行っていたみたいですからね」

「へえ。そうか」

 ニヤッと笑って日向先輩はプリンを人匙ひとさじすくって食べました。

「美味しいです。カラメルに苦みがあって良いですね」

「学は甘いカラメルより苦めがお気に入りでね」

 私もどちらかというと苦めが好きです。

 華さんお手製のプリンを口に入れると、甘みとカラメルのほろ苦さが口に広がって幸せになります。

 市販のもおいしいですが、手作りって良いですよね。

「プリンがお好きなんですか?」

「子供みたいでしょう。昔から機嫌が悪くてもプリンを上げると満面の笑みになったもんだよ」

 それはそれは可愛かったんだろうなって思います。

 写真を見せてもらったことがありますが“なんですかこれは!?”って思うくらい我が父ながら可愛いのです。

 歩いているだけで、帰宅するまでにいろいろ物をもらったそうです。

 今では考えられないですが、その当時はまだ危険度が少なかったのでしょう。

 今だったら誘拐されそうです。


「プリンで懐柔されますかね?」

「さて。陽向のこととなると分からないね。溺愛してるから」

「溺愛ですか」

「うん、嘘偽りなく溺愛」

「なるほど」


 隣で聞いていて恥ずかしくなりうつむいてしまいました。



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