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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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第百六話 廊下での珍事です



「大丈夫か陽向」

「お忙しいところすみません、晃先輩」

「かまわん。まったく俺様がいない三日のうちに…」

「えっ?」

「いや、何でもない。色々気をつけろよ」

「はあ」

 私の答えに晃先輩はため息をつきます。

「些細なことでもいいから、連絡するんだぞ」

「わかりました」

「よし、それじゃまたな」

「はい、有り難うございました」

 廊下で見送ると他のクラスの一年生たちが、驚いたように晃先輩をみていました。


「それにしても水崎さんの近くには良い男がいっぱいですよね」

「はい?」

 クラスメイトが私の右肩に手を乗せて来ました。

「風紀委員も結構いい男いるよねー」

 もう一人が左肩に手を乗せて来ます。

「あ、あの」

「水崎さん」

「は、はい」

「誰」

「は?」

「誰なの」

「何がです?」

「もう、誰が本命?」


「はい?」


 二人は顔を見合わせた後、私に詰め寄ってきました。

「やっぱり日向先輩?」

「私は晃先輩も捨てがたいと思うわ」

「最近、速水君とも怪しいらしいじゃないですか」

「いえ、あの」

「一条先輩とも仲がいいんでしょう?」

「あら、更科先輩とも仲が良いと聞きましたよ」

「如月先輩とはどうなの?」

「東雲先輩は?」

「あの、ですから」

 逃げようと思えば逃げられるのですが、何しろクラスメイトなので結局教室に戻れば同じです。

 困っていると、集まりつつあった生徒の間から速水君が現れました。

「何やってるの?」

「噂をすれば!」

「速水君はどうなんです!?」

「な、何が?」

 今度は速水君に詰め寄っています。

「ちょ、ちょっと二人とも」

 人が集まってくる中、皆の注目が速水君にいっている時にいきなり横から引っ張られてそのまま階段を駆け下ります。

 びっくりする中、その背中を見て修斗先輩だと気づきました。


「修斗先輩?」

「こっち」

 ぐいっと引かれて二年生のフロアにある視聴覚室へと入りました。

 何故わかったかと言いますと、独特のキーンという音がしたからです。

「何かありましたか? 修斗先輩」

 私がそういうと、じっと私を見つめてきます。

「あの?」

「困ってたよね」

「ええ、はい。そのために?」

「一年生が騒いでるって聞いて、来た」

「そうだったんですか。有り難うございます」

 うんと頷いて修斗先輩が困ったような顔をしました。

「どうしました?」

「陽向」

「はい」

「……。自分は」

 修斗先輩が何か言おうとした時でした。

 ガラッとドアが開いて日向先輩が入って来たのです。

「日向先輩?」

「発見っと」

 修斗先輩が日向先輩を見てため息をついたのが聞こえました。

「もうお昼休み終わるよ? お二人さん」

 腕時計を見ると確かにあと一分ほどでお昼休みが終わる時間でした。

「あ、本当ですね。教室に戻らないと。修斗先輩ありがとうございました」

「…あぁ」

 視聴覚室を出て行こうとしたところ、修斗先輩が私の腕をつかんで引き留めました。

「修斗先輩?」

「陽向」

「あの…」

「更科。陽向に遅刻させるつもり?」

 日向先輩が、私をつかんでいる修斗先輩の手をつかんで言います。

「…。何故おまえが陽向と呼んでいる」

 その時の修斗先輩の声は、今まで聞いたことがないくらい低くて冷たい響きでした。

「僕が陽向と呼んで悪い理由は?」

「あの」

「陽向、教室に戻った方がいいよ」

 こんな雰囲気の時に、何故か笑顔で日向先輩が言って、修斗先輩の手と私の腕を引きはがしました。

「でも」

「ここから一組まで少し距離があるし、もう行かないと遅れる。さ、行って」

「は、はい。あの、失礼します」

 頭を下げてから視聴覚室を出ました。

 数名の二年生が中を窺っていたようで、私が出ると驚いたように後ろへ下がったので何となく頭を下げて階段を駆け上りました。

 一組にたどり着く手前でチャイムが鳴りましたが、先生はまだ来ておらず何とか間に合うことができました。

 自分の席に着いてホッとしましたが、修斗先輩と日向先輩があの後どうなったのか、少し心配で授業に集中できません。

 何とかノートだけはとりましたが、先生の言葉はさっぱり頭に入って来ずに通り過ぎていくのです。

 先生がドアを開けて出て行く音で、授業が終わったことに気づきました。いつ、チャイムが鳴ったのかも気づかなかったようです。

 ダメですね。こんなんじゃ。

 今日は五時間で終わりなので、この後生徒会に行くことになります。

 帰りのホームルームを終えて鞄に教科書類をしまっていると、担任の西福先生が私のところへやってきました。

「陽向」

「さ…ええと西福先生。何でしょう」

「学が心配して連絡してきたんだが」

「あぁ…すみません。大丈夫です」

 悟さんは父の友人ですから、たまにそういう連絡が行くようです。

「相談事があったら、いつでも来るんだぞ」

「ありがとうございます」

「ちなみに今回は華と龍矢も連名だぞ」

「はい…本当にご心配をおかけしまして…」

 恐縮していると真琴が近づいて来て不思議そうな顔をしました。

「陽向?」

「あ、もう行きますか」

「うん」

「先生、もう行きますね。ありがとうございました」

「あぁ。がんばれ」

 肩をぽんぽんと叩いて西福先生は教室を出ていきました。

「何かあったの?」

「心配した父が西福先生に連絡したようで」

「知り合いなんだ?」

「うん、父とよくお酒を飲んでるの」

「へえ」

「さ、行かないと」

「そうだね」


 教室を出ようとすると、お昼休みの二人が近づいて来たのが見えたので私は慌てて真琴の手を引いて廊下に出ました。



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