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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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第百五話 休み時間に休めません


 

 体育祭が終わってしばらくゆっくりと過ごせると思っていました。

 

 ところがどっこい…だったのです。


「やあ、水崎さん」

 時々休み時間に日向ひゅうが先輩がやってくるようになったのです。

「日向先輩…移動教室なので、もう出ますよ」

「そう? それじゃお昼一緒に食べない?」

「お、お昼は生徒会のみなさんと食べるので…」

「そう? それじゃ放課後に図書室においでよ」

「いえ、放課後は生徒会の仕事が…」

「実はね、水崎さんが読みたいって言ってた本が入荷したんだ」

「えっ」

「一番最初に読ませてあげたくて」

「うぐっ」

 ついポロッと言ってしまった読みたかった本の題名を耳打ちされました。

「ううううう、お昼ご飯の後なら…」

「そう。それじゃ待ってるから」

 満面の笑みで去っていかれました。

 周りの生徒の視線が痛いです。

 はぁぁぁぁとため息をつくと、真琴が笑いながら私の肩を叩きました。

「真琴ぉぉぉ」

「よく来るよね日向先輩も」

「休み時間が怖いです」

「さ、休み時間終わっちゃうよ。行こうか」

「うう、はい」

 真琴が、午前中にすでに疲れている私を腕を組んで支えてくれました。

 こんなに休み時間に一年生の教室にきて、大丈夫なのかと尋ねましたら「大丈夫」と笑顔で返されてしまい、それ以上何も言えません。

 これから毎日こんな状態が続くのでしょうか。

 一年生のフロアに上級生が入ってはいけない条例とか作ってほしいくらいです。


 そんなの無理だってわかってますけど。


 お昼休みに生徒会専用の場所で食べた後、重い足取りで図書室へと向かいました。

 行かなければいいとか言われるかもしれませんが、読みたかった本なんです。読みたいけど行きたくない。行きたくないけど読みたい。

 そんな葛藤をしつつ図書室にとうとうついてしまいました。


 図書室のドアを開けると、意外と生徒がいました。

 二人っきりではないことにホッとしつつカウンターに向かうと、日向先輩がニッコリ笑って本を出してきてくれました。

 生徒手帳をかざすと貸し出しされるようになっています。

「おすすめの本もあるんだ、良かったらこっちも借りて行って」

「は、はい」

 少し薄目の本でしたが私の知らない作家さんでした。

「ね、水崎さん」

「はい?」

「陽向って呼んでいい?」

 カウンターの後ろで何かを吹き出す音が聞こえました。

 びっくりして日向先輩の後ろを見ると、どうやら二年生の図書委員の方らしく慌ててテーブルを吹いていました。

 図書室内って飲食厳禁のはずでは?

 私の視線を受けて慌てたらしいその先輩は、大急ぎでテーブルを拭いて奥へと引っ込んで行きました。

「日向先輩」

「うん。特例というか黙認されてるんだ。昼休みに図書室を開けている時は学食へ食べに行けないからね。もちろん、食べる時にはテーブルに本を置かないというのは守っているよ」

「そうですか」

「こういう時はカフェのサンドイッチか購買のパンになるんだけどね」

「日向先輩も?」

「もちろん、今日はサンドイッチだよ」

「大変ですね」

「ところで水崎さん」

「はい?」

「陽向って呼んでいいの?」

「えっ」

「良いよね? 結構色んな人がそう呼んでいるみたいだし」

「ええと、あの」

「僕のことは凛樹か凛でいいよ」

「いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ」

「いえ、多くない?」

「こ、これ有り難うございました」

 本を奪うように受け取って私は図書室を飛び出したのです。

「また来てね、陽向」

 後ろからそう言われましたが、返事をせずに早足で…今までさんざん廊下を走ったのに? と言われそうですが、ともかく早足で図書室から遠ざかりました。

 でも、借りたのですから返さなくてはいけないのです。

 うんうん唸りながら教室に戻った私は、真琴の「僕で良かったら返してくるよ?」と言う言葉に、その手があったかと視界が明るくなりました。

 読み終わったらお願いすることにしましょう。

 なんて思っていましたら。

「陽向、生徒手帳落としていったよ」

 日向先輩が私の生徒手帳を持って一組に入ってきました。

 内ポケットを確認すると確かに入っていません。

「はい」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

 僕から毎日会いに行くよとは言われていましたが、まさかこんなに頻繁に来るとは思っていませんでした。

 でも敵もさることながら、ちょっと来すぎじゃないんですかと思っているとピタリと来なくなったり。

 来なくなったなーと思っているとまた来たり。


「お前、また来ているのか」


 日向先輩の後ろから声がして、そちらを見ると晃先輩が立っていました。

「晃先輩」

「一年生に迷惑がかかっているから、さっさと自分の教室に戻れ」

「そうですか、わかりました。それじゃまたね陽向」

 こういうところは、あっさりと引くんですよね日向先輩は。


 すれ違う時、日向先輩は晃先輩に何か囁いていましたが私には聞こえませんでした。

 ただ晃先輩のため息が、いつもより弱弱しかったのが印象的だったのです。





少し空回りしている日向先輩です

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