第十一話 もう占いは信じません
二年生は二階ですので、三階よりはすぐにたどり着きます。
二組の教室へ行くと数名の生徒が残っていました。
「あの、更科先輩はいらっしゃいますか?」
私の言葉に全員が振り返りました。
何で全員がこちらを向くのでしょう。
「一年生が何か用?」
女子の先輩が私を睨みながら言いましたが、誰かが腕でそれを遮りました。
立ち上がって近づいてきた男子生徒が更科さんだったようです。
しまったと思いました。
更科先輩が、残念なことに生徒会専用のボタンレスの学ランを着ていたからです。
三人目の生徒会役員に会ってしまいました。
「更科先輩ですか?」
「……そうだけど」
「あの、一条先輩に呼んできてほしいと頼まれました。体育館倉庫です」
最後の言葉を少し小声で言うと更科先輩は驚いた顔をしました。
小声で話すために少し近づいたのですが、一言で言うと和風の男子でした。
きりりとした一重で、少し冷たさえ感じる視線でした。着物が似合いそうなこれまた見目麗しき男子です。
やっぱり生徒会には容姿端麗という基準があるに違いないと思います。
「一条が?」
「はい、追われてました」
更科先輩は頷くと、何故か私の手を取り走りだしました。
さっと目にもとまらぬ速さで掴まれたので回避できなかったのです。
「ちょっ、先輩、私はいらないと思いますううううう」
先輩の足の速さについて行けなくて転びそうになった私を、いきなりお姫様だっこしてそのままスピードを落とさずに走れるって凄いと思います。
はい。
現実逃避中です。
体育館倉庫に着くと下ろしてもらえましたが、真っ赤になった顔を誤魔化すために後ろを向きました。
お姫様だっこは夢でありました。でもこんな風に初お姫様だっこをされるとは思っていませんでした。
夢が叶いましたが嬉しくないのはなぜでしょう。
せめて許可とって欲しかったです、更科先輩。
パタパタと手で顔を扇いでいると、後ろでひそひそと話している声が聞こえました。
「あぁ、水崎陽向なのか」
更科先輩の声で私は思わず振り返りました。
「何で私の名前…」
「更科くんを呼んできてくれてありがとうね、陽向ちゃん。僕はね、生徒会副会長の一条 芹」
更科先輩が三人目だと思っていたら四人目でした。
「え、でもブレザー」
「うん、警戒されるかと思ってね、このブレザーは借り物」
変装をなさっておられたようです。
会わないように努力したかいがありませんでした。
「更科修斗。会計だ」
今日は厄日ですか? 今朝の星占いでは一位だったのに!
「君に会うために探してたんだけど、そのうちに追いかけられちゃってね。今のうちに場所変えようか」
「その方がいいな」
「ボクらは先に生徒会室に行ってるから、後で来てくれる?」
「え、それは…」
ご遠慮いたしますと言いかけました。
「来なかったら、もっと人目のあるところで更科くんにお姫様だっこしてもらうの刑に処するよ」
「行きます…」
即答しました。それ以外の答えはもはやありません。
「うん、待ってるね」
甘えるような声で言われて、がっくりと肩を落としている私の前で更科先輩があろうことか一条先輩をお姫様だっこしました。
そして、体育館倉庫の上に飛び乗り、そこから部室棟の二階に飛び移ったのでした。
忍者ですか? 更科先輩は忍者なんですか!?
お姫様だっこは更科先輩が人を運ぶ時のデフォルトですか!?
唖然とそれを見送って、私は今なら逃げられるかもと思いました。
でも、更科先輩の足の速さでは追いつかれるでしょう。
今日は逃げれても明日も登校しなくてはなりません。
朝から掴まってそしてあっさりと抱きあげられるに違いないのです。
それを大勢の女子の前で見られるなんて恐ろしくて恐ろしくて想像するだけで身ぶるいがしました。
なので、生徒会室に行かねばならないのです。
仕方なく私は重い足取りで、生徒会室へと歩き出したのでした。