表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
104/203

第九十九話 応援合戦です


日向ひゅうが先輩、時間ですよ」

 結局言えたのはそれだけで。

 ふっと微笑んだ日向先輩がまた耳元で囁こうとしたので、後ろに引くと頭を壁にぶつけてしまいました。

 勢いはなかったので、それほど痛くなかったのですが、逃げ場がありません。


「体育祭が終わったら、時間ある?」

「せ、生徒会で忙しいです!」

「明日は?」

「明日も生徒会で忙しいです!」

「あさっ…」

「明後日も、その次も忙しいですっ!!」


「日向君、時間よ」


 ちらりと後ろの結城先輩をみた日向先輩は、私の指をようやく放してくれました。

 ホッとしていると、立ち上がった日向先輩から恐ろしい宣言を聞いたのです。


「そっか、それじゃ僕から毎日会いに行くよ」


 喉がぐっ…となりました。

 その言葉の裏には「逃がさない」という言葉が、隠されているようで隠されていません!

 

「応援合戦、白組の…いや。君のために頑張るから、見ていて」


 甲田先輩が後ろでため息をついていました。

「日向…」

「行くか」

「……。浮き足立っちゃってるじゃないか。結城先輩までふわふわしてるぞ」


 応援団員がそわそわしています。


 日向先輩は眉を寄せると、腕を後ろに組んでキロリと睨み据えました。


「準備はいいかああああ!!!!」


 よく通る大きな声がビリビリと響きました。

 応援団員がビシッと固まった後「おおおおおおお」という声がホール内に跳ね返って振動が伝わります。


 応援団員の一人が日向先輩に長ランを手渡しています。


 真っ白い長ランに竜。

 甲田先輩は黒の長ランに虎。


 龍虎そろい踏みです。


 大抵こういう刺繍は背中が多いのですけど。

 あえて背中は何も書かかれていないようです。

 ただの応援と違って応援合戦なので、背中は団員に隠れてしまいますものね。


 ふう。


 どうやら少し落ち着いてきました。


 白い手袋を履いて、鉢巻を締めた団長のお二人は何故か同時に私を見ました。


「行こうか、陽向」

「えっ?」


「案内役でしょう、水崎さん」

 甲田先輩に言われて自分の仕事を思い出しました。


 そうでしたそうでした。

 応援団を呼びにきたのでした。

 立ち上がろうとして眩暈が遅い、ふらっとしたのを日向先輩に助けられてしまいます。


「大丈夫?」

 誰のせいだと…。

 いえいえ、なんでもありません。

 何も、ええ。何もないです。


 視線をそらしてお礼を言うと自分で立ちました。


「それではご案内いたします」

 スリッパを脱いだ後、元の場所へ戻して靴を履きます。

 隣へ来た結城先輩がうふふふふふふふふふふふふと笑ったので、肩がビクッとなってしまいましたよ。

 怖い声で笑わないでください。


「楽しみね~」


 何がですか…って応援合戦ですよね? ね?


「団長のお二人は結城先輩のご推薦だとお聞きしましたが」

「そうよ。いろいろ動いてもらった中で、あの二人が輝いてたの」

「はあ」

「うふふふふふふふふふふふふふふふ」


 だからその笑い方は恐いです。

 

 グラウンドに近づくと、場所取りの女子が増えているのが見えました。

 新聞部が悔しそうな顔をしているところを見ると、一番いい場所は別な方に取られたようです。


 倉庫の横から応援団が現れたのを見た人たちから派生して黄色い悲鳴があがりました。

 

 それぞれ紅組と白組の応援団の立ち位置を支持すると、私はテントへと戻ります。

 結城先輩は応援合戦には参加しないらしく、自分のクラスの場所へと戻るようでした。

 椅子に座って脱力します。


 なんですか。

 なんなんですか。

 いったいなんなんですか。

 一人で悶絶していると、悲鳴が止まりました。


 ドオオオオオンッ。


 太鼓の音が響いたことで思わず姿勢よく椅子に座ってしまいます。


 いよいよ応援合戦です。

 点数が負けている組からなので、紅組からの応援が始まるのです。


 団長が一番前に一人立つと、キャーと黄色い悲鳴があがりました。

「甲田くーん」

 と声があがっていますので同級生か三年生のお姉さまたちでしょうか?

「一同、礼っ!」

 ざっ…と音がして団員が礼をしました。

 揃うとすごいですね。


「紅組のーーーーーーーーっ、勝利を願ってーーーーーっ」

 うおおおおおおおおおと団員が叫びました。

「三三七びょーーーーーーーーーしっ」

 

 泉都門の応援合戦は、音楽などを使わずに太鼓のみで行われます。

 

 甲田先輩が動きを綺麗に決めるたびに、シャッター音がすごいです。

 連写してるのは誰です?


「まだまだいくぞーーーーーーーっ」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 その団員の声にも勝るとも劣らず、黄色い悲鳴があがります。


 紅組応援団の演武も終わりに近づいたころ、団長の両隣にいる二人が一度走って離れたので

何があったのかなとみていますと、再び走ってきて元の位置に降りるようにバク転を決めました。

 きゃああああという声と拍手がすごいです。


 白組も同じなのでしょうか?


 何だか、体育祭というより応援団のライブみたいになってますよ。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ