第九十五話 ご褒美はキャラメル
スタート地点に続々と生徒が集まっています。
偶数が紅組、奇数が白組となっていますので私のクラスは白組となります。
一年生の男子一組目がもうすぐ走りますので、スタート地点を見てみるとわがクラスの生徒がいました。
「宗野くん、頑張ってくださいね」
「あっ、水崎さん。ありがとう、絶対一位を取るよ!」
倉庫へ行くのに丁度傍を通ったので声をかけると笑顔で言ってくれました。
急ぎではないので、宗野くんが走り終わってから行くとしましょうか。
「位置について。用意…」
パンッ! と音がしてスタート地点に並んでいた生徒が走り出しました。
早い早い。
あっという間にゴールです。
宣言通り宗野くんは一位になりました。
ゴールからこちらを向いて手を振ったので、振り返して私は倉庫へと向かいました。
戻ってくると一年生の組が最後となっていました。
そこには風紀委員の兵藤くんが立っています。
「兵藤くん」
「あ、陽向ちゃん」
「頑張ってくださいね」
「サンキュ、君のために走るよ」
「白組のために走ってくださいね」
鉢巻が白かったのでそう言いました。
「相変わらずツレナイなぁ。仰せのとおりに」
ウィンクをした後、真剣な表情に変わります。
こういう表情をする男子ってかっこいいですよね。
何かに取り組もうとする真剣なまなざし。
私はその場を離れてテントに戻りました。
テントについた頃、スタートの音がしてテント前を男子が走り過ぎて行きました。
兵藤くんが一位の様です。
一位のポールを持ったままテントの私のところへ来てにっこり笑顔です。
「陽向ちゃん、褒めて褒めて」
「兵藤くんおめでとうございます」
「白組に貢献したよね?」
「そうですね」
種目にはそれぞれ得点が決められていて、上位に入れば白組に有利なことは間違いありません。
「この後、風紀委員の仕事なんだ」
「あ、そうなんですか。それじゃ、ご褒美とは言えないかもしれませんけど、はい」
少し疲れたときに食べようと思って用意していたキャラメルを渡しました。
本当にもらえると思っていなかったのか、少し驚いた顔で受け取ります。
「あ、りがと」
「そのキャラメル美味しいですよ」
「うん」
「そろそろ戻った方がいいのでは?」
「あ、そうだね。それじゃまた」
百メートル走が三年生の組まで来たときに、二年生の風紀委員の先輩がテントにやってきました。
「陽向ちゃん」
「新見先輩? どうしました?」
「一位取ったから、ご褒美頂戴」
「え?」
「兵藤がもらったって」
「あぁ、ええと。キャラメルですよ?」
「うん。頂戴」
私がテントを離れていた時に走ったようです。
「良いですけど」
袋からキャラメルを取り出して渡そうとすると、その後ろに晃先輩が立っていました。
「晃先輩?」
「えっ、委員長!?」
新見先輩が後ろを振り返って飛びのきました。
「俺様にもよこせ」
「これ購買で売ってるキャラメルですよ?」
「いいからよこせ」
「はぁ…」
晃先輩がずいっと手を出してきたので一つ載せると不機嫌そうな顔になりました。
「もっとよこせ」
「委員長ずるいですよ! 一位になったご褒美なんですから」
「ふん。どうせ俺様が出る種目は全部一位だ」
「そ、それはそうですけど」
「だから、先によこせ」
新見先輩が口を尖らせて抗議しています。
そんなに高価なキャラメルというわけではないんですよ?
自分で買えると思うんですけど。
「晃先輩って脚が速いんですか」
「まあな。生徒会では修斗が一番速い。が、三年では俺様が一番だ。今日は俺様の雄姿をしっかり目に焼き付けておけ」
「そういえば、晃先輩も白組でしたよね? ぜひ一位を取って白組に貢献してください」
集計途中の点数を見ると、今のところ白組が勝っています。
とは言いましても始まったばかりのことなので、まだまだわかりません。
脚の早い修斗先輩は生徒会唯一紅組ですし、強敵です。
ここは晃先輩に全部一位を取っていただきましょう。
「宣言通り、晃先輩が出場する種目で全部一位を取ったら、晃先輩が食べたがっていた駄菓子をプレゼントしようじゃないですか」
「なにっ!?」
晃先輩が食いつきました。
「委員長だけずるい」
「うるさいぞ、新見。…陽向、本当だな?」
「はい、私がおいしいとおもう駄菓子の詰め合わせをプレゼントしましょう」
「よし、まかせろ」
にっと笑って晃先輩はテントを離れていきます。新見先輩を引きずりながら。
その背中を見送りながら、気づきました。
新見先輩にキャラメル渡すの忘れてました…。