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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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第十話 天使が降りて来ました



 日曜日の買いものはとっても楽しい時間でした。

 三人でお揃いにしたのは、オレンジのラインが入った銀色のヘアピンです。

 当日前髪に留めることに決めて、日が暮れる前に帰りました。

 高級そうな車での送迎でしたが、あいにく車に詳しくないのでどれくらいの物かはわかりません。

 ただ、大変乗り心地が良かったという感想を述べさせていただきます。

 運転手さんが買いものにも付き合ってくださいまして、荷物も持っていただきました。


 はい。


 でも、目つきが普通の方ではありません。

 あちこちを警戒する視線は、やはりそれなりに訓練された方なのではないかと想像できました。

 今まではあまり考えませんでしたが、真琴も真由ちゃんもそれなりの家柄のご息女という感じでしょうか。

 ここは私も鍛え直さねばなりませんね。

 独り決意をしながらグラウンドへ行く近道をするために体育館倉庫横を歩いていた時でした。

 角を勢いよく曲がってきた生徒がいました。


 さすがに学習してますので、ぶつからないように避けましたが数名の生徒だったので行く路をふさがれました。


「あなた、一条さんを見ませんでしたか?」


「知りません」

 そもそも一条さんを知りませんので、そう答えました。

 制服のラインを見ると金だったので、三年生の先輩です。

「どちらへ行ったのかしら、仕方がありません二手に分かれましょう」

 三年のお姉さま方は、二手に分かれて走って行きました。

 このまま進むと面倒なことが起こりそうな予感があったので、陸上部の見学に行くはずだった予定を変更し、踵を返して教室へ戻ろうとした時でした。

 目の前にフワリと何かが落ちてきました。

「あっ、ごめん。驚かせちゃったよね大丈夫?」

 どこから降りて来たのだろうかと、私は上と落ちて来た生徒を交互にみました。

「屋根だよ、倉庫の屋根。さすがに女子は登れないかと思って」

 壁際に色々物が積んであるので男子生徒ならば登れないこともないでしょう。

 なるほどと思いつつ、その言葉から三年のお姉さま方から逃げていた人なのだろうと推測ができました。


「もしかして一条…先輩ですか」


「うん、そう」


 ブレザーのラインは赤。二年の先輩です。

 先輩という言葉をすぐに出せなかったのは、その見た目からでした。

 フワフワの癖っ毛の髪に白い肌。幼い顔立ちで中等部の生徒と間違えてしまいそうです

 背丈も私とそれほど変わらないくらいでした。

 にっこりと微笑んだ感じはまるで天使のお人形です。

 今でもこんなにかわいらしいなら、小学生の時はもう本当に天使だったに違いありません。

 写真見たいな…と思っていたら、天使はその微笑みのまま、いつの間にかすぐそばまで近づいていました。

「君、ボクのこと知らなかったんだね」

「あぁ、はい。高等部受験の外部生ですから」

「……そういう意味じゃないんだけどね。まぁいいか」

 その口角を保ったまま、先輩は私の手を取ろうとしました。


 はい。

 

 学習しましたので、避けました。


 先輩の左の眉がぴくりと上がったのが見えましたが、気づかぬふりをします。


「………ボクね。今、とおーーーーっても困ってるんだ。助けてくれるよね?」


 小首を傾げて先輩はいいました。

 それは確かに可愛いしぐさでしたが、口角がずっと同じです。

 人形のように同じ形。

 変わらない笑顔。

 なのに有無を言わせない威圧感がありました。

「な、何にお困りでしょうか」

「君も見たとおりボクは追われてるんだ。助けを呼んで来てくれない?」

「助け…ですか?」

「うん」

 この場を逃れるためでしたので、私はコクコクと頷きました。

 そうです、呼んで来ればここから離れられます。

「二年二組に行って、更科くんを呼んできて欲しいんだ。携帯端末教室に忘れてきちゃって」

「わ、わかりました」

 威圧感のために、私は自分の携帯電話のことを忘れていました。



 私は元来た道を戻って、高等部の棟へと急ぐことになったのです。






スマホが一般的になってきましたが、ここでは携帯電話とさせていただきます

スマホで想像していただいても構いません


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