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蒼穹  作者: 白乃
第1話 光の名前
9/23

08

レイファは人ごみを掻き分けて走っていた。協会でどんな場面でも即座に対応できるよう身体能力の向上を目的とした戦闘訓練を受けさせられていたレイファの走るスピードはとてもはやかった。

あっと言う間に目的地に着く。


目の前には真っ白な、病院と言われても納得してしまうような建物があった。

ここから研究所の場所は分らなかったが、能力の気配が一番するといったら此処だ。数は多くないが複数人の能力者の気配がする気がする。

気配は巧妙に隠されていてレイファのような長クラスでなければ見落としてしまうだろう。


(中央委員会の人…これじゃ気付けないかもね)

能力者がここにいることに。と心の中でぼやいてからレイファはどう侵入しようか考える。

時間はない。しかし見つかって捕まるのは論外だ。それは勇敢ではなく無謀で馬鹿のすることだ。


(能力で時間止めて入るってのも手だけど…)


レイファは時間を進めたり戻したりするだけではなく、止めることもできた。そして時間を止めたものを破壊しようと思えば簡単に壊すことが出来た。殺生ができない制限があるためやったのは物だったがおそらく生き物でも可能だろう。


(時間を止めて正面から入る…?それとも壁の時間壊して侵入する…?)

ほんの少し考えたのち、レイファは研究所の裏の、目立たない場所に移動する。


(時間を止めるの消耗激しいしきっと時間を止め続けられない…壁を壊して侵入しよっと)

能力は万能ではない。強力であればあるほど精神力や体力を消耗する。使うにはそれ相応の集中力も必要である。


(………よし)

子供一人がようやく通れる小さな穴を音もなく開けたレイファはそろりそろりと中に侵入する。


中は意外と明るく綺麗だった。白い壁と天上はよく見れば乳白色で温かみを感じる。天上にある照明はベージュ色で、もっとまさに研究所という真っ白な空間を想像していたレイファは少し拍子抜けした。

床は茶色のカーペットのようなものだ。余計にホテルかどこかに間違えて入ってしまったのかと錯覚する。


(いやいやちゃんと能力の気配もするし…!)

そう言い聞かせてレイファはとりあえず能力の気配の濃い方へ走り出した。


スィーアは能力者ではない。けれど、なんとなく能力者に似たような気配がする気がするとレイファは感じていた。あくまで似た様な、しかも気がする程度だ。それだけでは流石にレイファもその気配を追えない。

しかしここは協会と関連のある研究所で実験をするとなったら当然能力になるだろう。ならば能力の気配の濃い方へ行けばおのずと実験をされるであろうスィーアのものへ辿り着けるはず。

仮にその考えが間違っていたとしても一番能力の気配が濃い、つまりこの研究所で一番強い能力者を倒すなりなんなりしてして研究所を閉鎖させてしまえばスィーアを助けることが出来るとさえ思っていた。


(スィーアが実験を受ける受けないにしても…こんなところにいさせたくない…!)

研究所がどうとかレイファには関係なかった。

とにかくスィーアをここから連れ出して二度とここに来させたくない、そう思っていた。


暫く走っていると、他とは違う奇妙な扉を見つけた。

今までドアは深みのあるこげ茶の木のドアであったのにその扉は真っ黒な大理石のものだった。触るととても冷たい。


「………」

能力の気配は奥からする。

けれどこの扉が気になって仕方ないレイファはその扉を開けてみることにした。


その扉には取っ手さえなかった。

艶やかに美しい大理石は傷一つなくただはめ込んだようにも見える。

けれどその扉の向こうに誰かがいる気配がした。だから開く筈だがどうやってあければよいのか分らない。


「………仕方ない」

実力行使。

研究所に入ってきたのと同じ方法で時間を破壊して入ることにした。


レイファにとって時間を破壊する対象が手で破れるくらい軟い紙でも、爆弾でも傷一つ付かない鋼鉄でも変わらない。

時間を止めて破壊するだけ。そこに強度など関係ない。

音もなく子供一人がやっと通れるくらいの穴をあけたレイファは中に侵入する。


中は暗かった。

青白い小さな電気がパチッパチッと時折消えながらついているだけである。これぞいかにも怪しい研究所である。

暗がりに目がまだ慣れていなかったが誰かの気配がする。レイファがその気配に気付くと同時にそこにいた人物もレイファの侵入に気付いたらしい。当然だろう、これで気付かなかったらレイファはその神経の図太さに拍手を送ると断言できる。


誰だと言って振り向いたのは茶髪の、研究員にしてはがたいのいい大柄な男である。

男はいくつものモニターがある機械の前に立っていた。モニターには何かのグラフのような者が数個あり、モニターの隣にはガラスがある。

ガラスの向こうにまたガラスが見える。どうやら円形の吹き抜けのようなつくりになっている部屋を見下ろせるようになっているらしい。


レイファは咄嗟に振り返った男よりも早く動き、視線に入らないようにすばやく男の背後を取ると無防備な男の後頭部に手刀を食らわせる。

それだけで昏倒した男はぴくりとも動かない。

レイファは息をつく間もなくガラスに張り付いた。

下を見るとレイファの想像以上の光景が広がっていた。




「レイファ、大丈夫かな…」

シャウアを彼女の家まで送ったリクヤはぼんやりと呟いた。リクヤはシャウアの家のリビングにお邪魔している。

とても綺麗な家だ。カントリー風のリビングの雰囲気は多少なりともリクヤを落ち着かせた。

落ち着いていなかったら今頃レイファを追いかけていただろう。

シャウアはリクヤの斜め前に座っていて指を絡めたり開いたりしながらじっと俯いて視線を落としている。


レイファが研究所に向かってまだ一時間も経っていなかった。

まだ全然時間は経っていない。何かあったのか心配するには早すぎる。大丈夫だ、とリクヤは自分で自分を言い聞かせる。


「シャウア、大丈夫。レイファは必ずスィーアと一緒に帰ってくる」

「………」

「あいつは、嘘はつかない」

「…そうね…」


小さく、辛そうに微笑みながらシャウアが言う。

そうすることでリクヤも自分自身に改めて言い聞かせる。レイファもスィーアも無事だ、と。


「…お茶、入れるわね…」

シャウアが立ち上がって茶を入れるために席を立った。シャウアも落ち着かないようだった。ただ待っているしか出来ないリクヤは自分がとてももどかしく感じた。自分が行ったとしても足手まといになるだけだと思うと余計に胸が痛む。


(くっそ…)

せめて能力が使えたら少しでも力になれるのに。そう思っているとシャウアがハーブティーを淹れて持って来た。


「はい」

「…サンキュ」


基本的にリクヤはこういったお茶系よりコーヒー派だが、とても美味しかった。

ふうと一息つく。するとだんだんと落ち着いてきた。

もう一度深呼吸をする。


(…今俺に…出来るのは……シャウアに何もないように待機する事だけ、か…)

深呼吸をすると冷静になってきたリクヤはそこに落ち着いた。

レイファの事情も、スィーアの事情もリクヤからすれば有り得ないことだ。疑問は止め処もなく溢れるし、かといってその解決方法は一つも思い浮かばない。

ただ唯一分かっているのは全て協会が絡んでいるという事。


だとすれば協会の事を何も知らないリクヤに出来る事はなかった。

出来るのはもしも何かがあった時、シャウアを守る事。そしてレイファとスィーアの帰りを一緒に待つ事だ。


「帰って…くる」


リクヤはもう一度そう呟いて二口目のハーブティーを頂いた。

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