07
(………これは、闇……)
リクヤはレイファから漠然と能力の属性の事は聞いてる。
しかし、レイファや村を襲ったリーヴァンとかいう少年の属性は無らしい、他にも属性がある、そのようなことしか覚えていない。
しかし、リクヤは目の前のブラフという少年が扱う属性が闇であり、またその能力の強さ…つまり基本値がレイファやリーヴァンより格段に劣ると言うことを確信していた。
協会のトップクラスと比べればそれは劣るに決まっている。
本能でレイファやリーヴァンの能力は危険である、逃げなくてはと感じてはいたが、現在その警鐘は全く鳴っていなかった。
(…いける…)
対処法も何もわからない。けれどリクヤは自分でも驚くほど冷静だった。
「…怪我したくないんやったら棄権する?」
「…しない。今、財布は火の車なんでね!」
そういうや否やリクヤが地を蹴った。
ブラフはその姿を面白そうに見つめると再び黒い玉を出現させてリクヤに投げつける。
それを予測していたかのように剣を構えていたリクヤは、球を切らないように器用に上に向かって弾き飛ばした。
球は一直線に空に向かっていきやがて消えた。
ブラフは一瞬驚いたように目を見張ったがすぐに表情を引き締めて再び球を飛ばしてくる。
リクヤはまるで球がどこに飛んでくるのかわかっているような動きで飛んでくる沢山の球をすべて空に弾き飛ばしていった。
「な、なんでっ…!!」
「ばーか、全部見えてんだよ!」
「…!!」
リクヤはブラフのすぐ眼前まで迫った。すべて見切られている様子に信じられず、球を飛ばすことに夢中になりすぎたらしいブラフは眼前までリクヤが迫っていることに気付いていなかった。
距離を取ろうとする前にリクヤが剣を首元に振り、ピタリと止めた。
「俺の勝ち、だな」
「………はっ…。お前…思ったよりやるやん…」
直後、いつの間にか静かだった場内は一気に歓声に包まれた。
「勝者!リクヤ!」
審判が高らかに宣言する。歓声がさらに大きくなり、リクヤははにかみながら出口へと向かった。
その直前、ブラフはリクヤを呼びとめた。リクヤが振り返ると、ブラフは満面の笑みを浮かべて立っていた。
「楽しかった!またな!」
「……!…ああ!」
「も~すっごい焦った!」
レイファたちのところに戻ると、リクヤに振ってきた声はお疲れ様というものでもおめでとうというものでもなくそれだった。
「そこはお疲れ様じゃねえの」
「まだ一戦目だよ?何言ってんの?」
「………」
ああ、そうだった、レイファはこういうやつだったと漠然と思いながらリクヤは苦笑しかできなかった。そこに小さな塊がリクヤにぶつかってくる。
少し後ろによろけながら視線を落とすとスィーアが抱き着いていた。
「おつ…かれ…」
「………」
ああ。ヤバい。
素直にそう思ったリクヤはスィーアに何か答えることもできずに凝視した。
スィーアはおろおろと視線を彷徨わせてゆっくりと離れてリクヤとレイファとシャウアを交互に見上げながら宙に視線を彷徨わせた。そんな姿もかわいくてついつい見守っていたリクヤの後頭部にレイファがチョップした。
「リクヤ。犯罪っぽいからやめて」
「ちょっとまてレイファ。犯罪ってなんだ。犯罪って」
「目がやらしい」
「その言い方やめろ!オレは誘拐犯でもねえ!」
そんな風に言い合う二人をシャウアは笑って眺め、スィーアはさらにおろおろとしながら交互に見比べていた。
その後、リクヤもレイファも絶好調に勝ち進んでいき、ついに準決勝にまで上り詰めた。
「リクヤ!次に勝ったら決勝だね!組が違うからどっちも勝ったら決勝で対決だねえ!」
「な、なんでそんなにたのしそーなんだよレイファ…」
リクヤとレイファは丁度連続して試合があったため、最初試合したリクヤが次のレイファを待っていた。
十分も経たずに帰ってきたレイファを見てリクヤは流石としかいえなかった。
一緒にスィーアとシャウアのいる場所へと戻る。
今日は準決勝までやって終わりだ。決勝は日を改め明日執り行われる。
「あっと済みませんっ」
「大丈夫か、レイファ?」
「いえ…こちらこそ」
人の多さによろけたレイファが人とぶつかった。白衣を着た女の人だ。どこか急いでいるのか一言そういうと足早に立ち去った。
「急患が出たのかな?」
「ああー一応殺生はご法度だけど怪我人結構いそうだよなぁ…」
こういうイベントのときは医者は大変だねと話しながらシャウアのいるところへとついた。
するとキョロキョロと辺りを見回すシャウアがいた。
「あれ?シャウアどうしたの?ってスィーアは?お手洗いー?」
「あ!レイファ!違うの!いや、そうなんだけど…帰ってこなくて!」
レイファが尋ねるとシャウアが答えるが相当焦っているらしい。
その間にも視線はふらふらと人ごみに向けられている。
シャウアの言葉を受けて黙って何か考え込んだレイファの変わりにリクヤが更に尋ねた。
「トイレから帰ってこないだって?いつからいないんだ?」
「えっと…二人が試合する前に行ってから…」
「大分経つじゃねえか!迷子か!?」
「探しに行こうと思ったんだけど…もし帰ってきたらどうしようってそれで…」
オロオロと挙動不審だったのはその所為らしい。
とりあえずスィーアは子供で小さい。この人ごみに流されて迷ってしまったのかもしれない。
次の試合までまだ少し時間がある。手分けして探そうとリクヤがレイファに声をかけようとしたときだった。
「そうか!リクヤ!さっきの白衣!」
「な、なんだ!?白衣?がどうかしたのか?」
「もしかして…スィーアと関係があるんじゃないの?」
「!」
その言葉を受けてリクヤはハッとする。
シャウアが言っていた協会と関わりがある研究所、スィーアはそこに帰ったか連れて行かれたか。
シャウアの様子を見るとどうも何も言わずに連れて行かれた線が濃厚である。
「…ってリクヤ、知ってたんだね、酷いよ…。というか、僕をなめないで欲しいな。僕だって一応能力者。スィーアには微妙に能力の気配がする。しかもあの耳も本物だよね、なら普通の研究所じゃ無理。とすると協会関係?」
鋭い洞察力だ。そこまで考えていたのか。リクヤは吃驚してレイファを見つめることしか出来ない。シャウアも吃驚してレイファを凝視している。
「あの白衣も今考えればちょっとおかしい。医者なら救急箱とか何か持ってるはずじゃないの?けれど何も持ってなかった。何かを探しに来たなら不自然じゃない。ということは…」
「スィーアは連れ戻されたってことか?」
「そう考えるのが自然だね。でもシャウア、こういうことって良くあることなの?…気を悪くしたら申し訳ないんだけどさ、連れ戻すくらいなら外に出さないんじゃないの?って思う…」
レイファが聞くとシャウアはゆるゆると首を振った。
「スィーアは…猫の遺伝子と人間の遺伝子を組み合わされて生まれてきたらしいんだけど、その、どちらの習性もあるからずっと室内にいると気が滅入って身体にも影響が出るらしくて…何でか分らないけど私のところなら決まった時間いてもいいと…」
「研究所の人間がそう言ったの?」
「私は別に監視のために一緒にいたわけじゃないわよ!?でもあの子が外に出れるならと了承しだだけ!」
「わ、わかってるよ、シャウア落ち着いて…!」
レイファがシャウアを宥める。
勿論リクヤもレイファもシャウアがスィーアを監視しているなんて思っていない。二人は本当に友達、いや家族のように見えた。
「こんなこと初めてだわ、どうして…まだ時間だってあるのにっ…!」
シャウアが蒼白な顔をしてふら付く。慌ててリクヤがシャウアを支えた。リクヤが声をかけるとシャウアは大丈夫というが全然大丈夫には見えなかった。人が多く空気が悪いのも手伝ってシャウアは今にも倒れそうである。
「シャウア。一旦外に出たほうがいい。スィーアは必ず俺達が探し出す」
「リクヤ…」
「スィーアに悲しい思いはさせねえ。必ずシャウアんとこに連れてくる。今日はもう帰って休め。顔色悪いし…な!」
リクヤの笑顔につられてシャウアが微かに笑みを零した。
もしかしたら自分の所為だと責めているのかもしれない。そう思ったリクヤはシャウアをとにかく安心させようと宥める。
リクヤがシャウアを外まで送る。本当は店まで付き添いたかったが次の試合の時間まで余り時間がないため外までにした。
先ほどの場所に戻るとレイファは神妙な面持ちで何事かを考えていた。リクヤが声をかけるまで没頭していたのか声をかけたとたんびっくんとあからさまに肩を震わせてリクヤを見上げた。
「お、驚かさないでよ…リクヤ…」
「いや、わりい、気付いてるかと思って」
「もう。ねえ、それよりリクヤ」
「なんだ?」
「もしかしたらやばいかもしれない」
「は?」
リクヤは思わず聞き返していた。どういうことだろう。
「協会関連なのは間違いないんだよね?」
「ああ、シャウアはそういっていた」
「…なら、実験が始まるのかもしれない…」
「な、なん…!?」
「だって、いきなりいつもはしない迎えとか来たら不審に思うでしょ!?だから勝手に連れて行ったんだよ!協会と繋がりがあると分っていて乗り込む奴なんて普通はいないし。普通は」
「………」
あえて何も言わなかったリクヤはレイファの微妙な視線をスルーして考える。
ということはスィーアも協会の実験とやらをされてしまうのだろうか。
レイファが言う限り協会は失敗を恐れない。失敗したら死ぬか、死ななくても感情もなにもない黒天使というものになり協会に使われるだけになるという。
そんなことになって欲しくない。リクヤはギリッと奥歯を噛んだ。
「一体どうすれば…っ」
「じゃあ止めるしかないよ」
「どうやってっ…まさか…っ!?乗り込むのか!?」
「…本当は僕は逃げてるから協会に見つかるような事はしたくないけど友達を助けたいのは仕方ないじゃない!…いやしたくないじゃなくてしたくても出来ないことをやるしかないんでしょ?リクヤ的に」
「言ってる意味激しく不明だぞ。レイファ」
でもそういうことでしょ、と笑うレイファにそうだな、と返す。
やりたくても出来ないことなんて沢山ある。けれど、やれるだけやれば可能性はゼロではない。
リクヤはよし!と自分に活を入れるように頬を叩く。
「じゃあ早速行こうぜ!」
「待って!」
「なんだよ?早くしないと…」
「研究所へは僕一人で行く」
「!?」
「きっと研究所には能力者がいる。僕はともかくリクヤは能力者に対して耐性もないし戦えない。だからリクヤは試合が終わったら直ぐシャウアのところへ行って」
「そんなっ…俺も…っ」
自分が足手まといだと言う事は分っている。しかし、レイファを一人だけ危険な目にあわせるようなことはしたくなかった。
暢気に一人だけ試合に出てシャウアと二人でのんびり結果を待つだけだなんてできない。
しかし、次のレイファの言葉でリクヤの思考は停止した。
「……シャウアももしかしたらそうかもしれない」
「…は?」
「スィーアは研究所の実験体なんでしょ…。シャウアもそうかもしれないって事」
「…それ、どういう…」
リクヤが呟いた直後、場内にリクヤを呼び出すアナウンスが流れた。
「行ってリクヤ。シャウアを守ってあげて。ついでに野宿は嫌だからね!」
「な!?レイファ!」
制止の声も聞かずにレイファはリクヤの伸ばした手をすり抜けて走り出す。
レイファの姿は直ぐに見えなくなった。
アナウンスが再度響く。
「くそっ!」
リクヤは舌打ちして入場門へ走った。
試合はリクヤの圧勝だった。