第七話 囚人たちと第一階層
CAUTION:良い子の皆は、作中に書いてある行動は出来たとしてもやっちゃだめだぞ。
若干の台詞及び表現を修正(2013/3/3)
ザグンの体が淡い光に包まれ、二本の太い棍棒を下位ゴブリンの顔面にそれぞれ同時に叩きつけた。<両手利き>スキルのアーツ同時攻撃が発動した結果である。下位ゴブリンは元の造形が想像できない程度に破壊された棍棒型に陥没した顔面のまま絶命した。少しの間があり、下位ゴブリンの体は光に包まれ消滅、それと引き換えに小さな牙が残る。
ここは迷宮入口近くのT字路を右に曲がり、ショートソードを得た部屋の前を通り、左にまがってすぐにあったドアの中の部屋である。
部屋には二つのドアがあった。入ってきたドアの正面にもう一つドアがあったのである。
「今回は武器は無しか。最初のは初心者の幸運だったのかなぁ」
そう言いながら、ラグスが下位ゴブリンの牙を拾う。ショートソードを拾ったのは昨日のことである。
太い棍棒についた血糊を軽く振りながらザグンが答える。
「まだ浅層だ。これから手に入るさ」
ディックはすでにドアを調べている。なにやら難航しているようだ。ロイはディックの手元を見つめている。
部屋に入った気楽さか、ラグスは言を進める。
「まぁバッツも言ってたけど、一階層でなんとかディックの武器を見つけたいなぁ」
ラグスの言葉に頷くザグン。パーティ内の戦力増強は急務の課題だ。今は前衛二人でどうにかなっているが、そのうち厳しくなってくる。そうなってからでは遅いのだ。武器だけではない防具もどうにかしなければならないのだから。
迷宮に足を踏み入れる前に、武器防具販売所のルンカに聞いたところ、布製防具――最初に尋ねたときにも言っていたが、布の手甲と布の脚甲が一つコイン二枚――ならばコイン枚数が少なくて事足りるが、布製防具は魔法効果のあるものでなければ無いよりもマシ程度であり、前衛が装備するものとしては心許無い。ラグスとしては、盾もほしい所である。
「おい、ラグス」
そんな話をしていたところ、ディックから声がかかりラグスがそちらを見ると手招きしている。
「どうしたの?」
「こいつを見てくれ」
ラグスが近づくとディックが軽く体を逸らして、件のものが見えやすいようにする。そこにはドアの下にドアと平行に細い糸のようなものが張ってあり、ドアに括り付けてあった。それを見たラグスがディックに問う。
「……罠か」
ディックが頷く。そしてラグスが持っている赤錆びたショートソードを指差す。ラグスはディックに剣を渡した。ドアの取っ手と反対側の下に張ってあるあたりの細い糸を手で握り、ドアに括り付けてある辺りを剣で切る。剣をラグスに返しながら、
「ゆっくり開けてくれ」
ディックが指示を出す。それを受けラグスがドアをゆっくりとあけ、部屋に異常がないのを確認する。ディックを見るとドアの上のほうを指差す。入ってすぐのドアの上を見る。するとそこには小さな土壺があり、糸が括り付けてあった。
「不意にドアを開ければ、糸が切れて土壺が落ちてきて何かを撒き散らすって寸法さ」
罠の簡単なレクチャーをして、ディックを糸を離す。土壺が地面に到達する前に手で受ける。土壺に蓋がしてないのを確認した後、土壺の首辺りを右手で持ち、左手で首の上を何度か扇ぐ。
「軽い毒だな。たぶん皮膚吸収型だろう。詳しい効能はわからない」
ディックが全員に告げた。そしてしばらく考え、
「問題はこれを誰が仕掛けたかだな。囚人ならいいが、罠師だとしたらこの先面倒なことになるぞ」
罠師、モンスターの一種。迷宮探索者を見れば逃げるほどに小心かつ戦闘能力は皆無であるが、迷宮内に罠を仕掛ける。かなり小型の人型モンスターで四十サンチメータル程度の身長であるが群れる習性がある。今までで知られている最大の群れの数は百匹を超すという程。この罠師がいる迷宮は、罠を解除しても罠師によって再度罠を仕掛けられる場合があり、攻略難度は跳ね上がるといわれる。
ディックの言を聞いて全員が唸る。
「とはいえ、ここで悩んでも仕方ない。ただ、ドアがあったら注意してくれ」
全員が了解の意を表す。改めて部屋を見ると左手側にドアがまたある。ディックがそれに気づき、ドアに向かう。ラグスが部屋の右側に細長いなにか落ちているのを発見し、歩み寄る。
しかし、明かりをもったロイがディックについて行ってしまったため、薄暗くなにがあるのかよくわからない。仕方がないので手に取り、明かりのほうへ移動する。するとそれは鞘に入ったサクスであった。鞘から抜いてみると刃渡りは三十サンチメータル程で剣身に二匹の蛇が絡み合っているような装飾が施されていた。錆びはなく、鉄製であるように思える。またグリップの部分に何かの皮が巻いてありしっかりとした装丁である。サクスの存在をザグンに知らせる。
「ほう、サクスか。どこで……」
ラグスが拾った箇所を指差す。
「ふむ、さっきの剣もあるし、ディックに渡し……」
「シッ!」
そこまで大きな声を出していたわけではないがディックが静かにするように注意する。
「この奥に何かいる」
ディックが端的にそう示すとラグスはディックにサクスを渡し
「罠は?」
「罠も鍵もない」
そう小声でやり取りをする。ドアノブを静かにつかみ、一気に開け部屋になだれ込む。そこには、下位ゴブリン五匹とそれより少し大きなゴブリンが二匹いた。ゴブリンたちはすべて素手である。下位ゴブリンよりを少し大きなゴブリンを見て取ったラグスが声を上げる。
「下位ゴブリン優種だ!」
そう言いながら、いきなり乱入された事に驚いて戸惑っている下位ゴブリンたちの一番手前にいたものの胴体にショートソードを突き刺す。それをみた優種が怒り声をあげる。ラグスは死骸を後続左側にいた下位ゴブリンにぶつかるように蹴る。その勢いでショートソードを抜く。その際にラグスの右側から掴み掛ろうとした下位ゴブリンをザグンがテニスのバックハンドの要領で振り抜く。なにかを撒き散らしながら吹き飛ぶ下位ゴブリン。ザグンはバックハンドで振りぬいたベクトルそのままに右側にいた下位ゴブリンの頭を左手の棍棒で打ち据える。下位ゴブリンは脳漿をぶちまけながら倒れ伏す。残り下位ゴブリン二匹と優種二匹。
一瞬の間が空く。優種二匹がザグンに襲いかかろうとした。するとザグンの後方から何かが飛び優種一匹の顔に刺さり倒れ伏す。ディックがサクスを投擲したのである。残された優種は怯むことなく体勢の崩れたザグンに掴み掛ろうとする。ザグンは左側にステップし、回避すると同時にフォアハンドの要領で優種の顔面を強打する。優種は頭を起点にグルリと一回転し、地面に倒れる。そこにザグンが左手で棍棒の先端を頭にたたきつける。
一方、下位ゴブリンと死骸を押し付けられたせいで遅れてもう一匹がラグスに掴み掛る。最初に掴み掛ってこようとした下位ゴブリンに牽制の袈裟切り、それに驚いて一瞬止まる下位ゴブリン。袈裟切りで右手が左側に移動したのを幸いに右手を引き付け、一歩前に出ながらそのまま前に突き出す。下位ゴブリンは回避しきれず、ショートソードがそのまま突き刺さる。突き刺さった剣をそのまま下方に力任せに移動させる。絶命。遅れてきた下位ゴブリンが掴み掛り、噛みつこうとする。それ左手で押さえ、胴体から抜けていない剣から手を離し殴りつける。吹き飛ぶ下位ゴブリン。倒れている下位ゴブリンに一気に駆け寄り頭に向かってサッカーボールを蹴るように蹴りを放つ。普段曲がらない方向に首が曲がったことを確認して、剣の元へ戻り引き抜く。
「ふぃ~、下位ゴブリンが馬鹿でよかった~」
そんな気の抜けた息の吐き方をしながらショートソードを取り戻すラグス。ショートソードは、本来斬撃よりも刺突に向いた武器である。さらに今持っているラグスのショートソードは赤錆びているため斬れ味がいいとはお世辞にも言えない。下手をすれば斬るより叩きつけたほうが威力が高いと考えらえる。だから咄嗟に牽制として斬りつけはしたが、上手くいくとは思っていなかったからの発言である。
「まぁ、下位ゴブリンだからうまくいったようなものだな」
そう返答しながら頭に刺さったサクスを抜くディック。周囲を見ていたザグンが
「ふむ、何かありそうだな」
と告げる。ラグスとディックは、布で剣についた血糊を拭きながら、なにかないか周囲を見回す。
そこにはいろいろなものが散乱していた。
名称:ラグス レベル:1 先天的才能:守り手
スキル:<剣術>(1:0/10)、<盾術>(1:0/10)、<気迫>(1:2/10)、<**>、
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アーツ:<剣術>:スラッシュ、<盾術>:バッシュ、<気迫>:呼び声、
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名称:ザグン レベル:1 先天的才能:怪力
スキル:<鎚術>(1:3/10)、<両手利き>(1:0/10)、<物理耐性>(1:0/10)、<**>、<**>、
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アーツ:<鎚術>:スマッシュ、<両手利き>:同時攻撃、<**>:**、
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名称:ディック レベル:1 先天的才能:弓の名手
スキル:<弓術>(1:0/10)、<探査>(1:2/10)、<開錠>(1:0/10)、<**>、<**>、
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アーツ:<弓術>:ピアッシング、<**>:**、<**>:**、<**>:**、
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名称:ロイ レベル:1 先天的才能:魔法使役者
スキル:<魔法制御>(1:1/10)、<水属性制御>(1:1/10)、<土属性制御>(1:1/10)、
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アーツ:<魔法制御>:射出制御・対象制御・範囲制御、<**>:**、
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夜中にザグンやラグスやってる動きをトレースしてる自分を書き終わってから思い出す。イメージを明確化するためとはいえ……。