第五話 囚人たちと怪異たち
台詞回しを修正(2013/3/3)
ラグスたちが迷宮入口を抜けるともうそこは暗闇に包まれていた。そこで一斉に全員が松明の存在――もしくはバッツの言葉――を思い出したのか声をあげる。まだ迷宮入口からのほのかな光でお互いの顔は見えている。ラグスとザグンは、ディックとロイを振り返る。それは言外に俺たちはもうコインはないぞと示しているものだった。それを見たディックとロイは互いに顔を見合わせる。ロイはしきりに瞬きをしている。それを見たディックは、目が右上方に動き、その後頷く。
「わかった、俺がコイン二枚出す。ロイ一枚よこせ」
ディックは、ロイが将来的に高額な杖もしくは魔導書が必要なこと及び松明がコイン二枚、火打石がコイン一枚であったことを思い出していたのである。ロイは慌てて小袋からコインを一枚取り出しディックに渡す。それを受け取ったディックはそのまま引き返していった。その後、衛兵の笑い声がラグスたちの元まで響いてきた。
しばらくしてディックが戻ってきて火打石で松明を灯す。火打石を小袋の中に収める。そのまま、ディックが松明をもっていたほうがいいだろうということになり進み始める。 四十メータルほど進んだであろうところで、T字路に差し掛かる。ザグンがラグスに尋ねる。
「ふむ、さてどうするか。右か左か」
「う~ん、左……かな?」
ラグスが振り返り後ろの二人を見ると二人とも頷く。遠くに迷宮入口の明かりが見えた。ラグスは頷き、左側の通路を進み始める。しばらく進むと通路が左に折れており、ザグンが立ち止まる。それをみて全員とどまる。
「迷宮での曲がり角じゃ、待ち伏せに注意。だろ?」
そういってザグンがディックを見る。ディックは頷き、
「そうしてくれるとありがたいが、この先にはいねぇよ。まぁ曲がり角は立ち止まるか大回りするってのが常識だな」
ニヤリと笑いながら告げる。それを聞いたロイは何度もコクコクと頷きを返し、ラグスは一度頷いて、
「なら、この装備だし、一旦止まって警戒した後、大回りにするよ」
そういって三人を見回す。全員が頷きを返したのを見て、まずラグスが角を大きく迂回しながら曲がる。それに習い残り三人も同じような行動を取る。十五メータルほど前進するとまた通路が左に折れている。それをみたラグスたちは一旦止まり、周囲を警戒する。
「……いるぞ」
ボソリとディックが囁く。ラグスが頷き、足音を忍ばせながら角を大回りする。薄闇の中で何かがうごめいているのがわかる。武器を持たない左手で他のメンバーに合図を送る。他のメンバーも注意しながら角を曲がる。松明の明かりが前方の小部屋を照らした瞬間、何かが騒ぎ始める。それを見たラグスが他のメンバーに警告を発する。
「警戒コオロギだ!早くやらないとやばい!」
警戒コオロギとは、全高三十サンチメータル、長さ一メータルほどの大きさで、発音器で不快な音を発生させ周囲のモンスターをおびき寄せる厄介なモンスターである。幸いなことに警戒コオロギは一匹。それを見て取ったザグンが駆け出し太い棍棒を叩きつける。警戒音を発しようとしていたのか警戒コオロギはそのまま、グシャリッという音ともに絶命した。ピクピクと動く脚を見てロイが目を瞑る。ピクピクと動いていた脚が止まると同時に、警戒コオロギの死骸は、淡い光となって消えていく。光がなくなるとそこにはコオロギの羽が落ちていた。
「ふぅ~、最初から警戒コオロギとは災難だ……」
ラグスは羽を拾いながら愚痴を漏らす。ザグンが苦笑を浮かべながら、
「まぁ、これがこの迷宮の歓迎の仕方なんだろう」
そういったあとラグスの手にある羽を見て、すぐにラグスの顔に視線を戻す。
「あぁ……あぁ、そういえば分配について話してなかったよね。どうする?」
それだけの動作でラグスが気が付いたことに満足げな顔を浮かべてザグンが、
「みんなはどうしたい?」
そういってザグンは他の二人を振り返る。そこには眉間に皺が寄らない程度に険しい顔をしているディックと周囲をキョロキョロとみているロイ。
「取得物を換金した合計額を五で分けるのがいいと思う」
ディックが告げる。なぜ五という数字がなのか理解できず、首を軽く傾げるラグスとザグン。ロイはキョロキョロするのをやめて地面を見ている。
「これから先、何があるかわからん。ポーションやら……」
ディックが松明を前に突き出す。
「この松明だってそうだ。毎回誰かしらが負担するのでは割に合わん。だからパーティ内で必要なものを買うための資金として貯めてしておく必要があるだろ? だから、五で分けるのさ。端数が出た場合も、全部、パーティ資金にしておけば揉め事は少ないだろ」
ディックの言を聞いていたラグスとザグンは少しの間考える。その後ラグスが頷く。
「一理ありだね」
ラグスがザグンとロイを見る。ザグンとロイも頷く。分配分を五で分けることが決定したことで、元の道を戻り始める四人。
先ほどのT字路まで戻り、迷宮入口から見て右側にそのまま進む。
右の通路を15メータルほど進んだ時右手にドアが見える。ラグスが左手を挙げ、ドアを指差す。ディックは松明をロイに差出しドアの前に立つ。ロイを手招いて、松明を指差した後、ドアの取っ手を指差す。頷き、ドアの取っ手が明るくなるように松明の位置を調整するロイ。周囲を警戒するラグスとザグン。
ディックがドアの取っ手を覗き込む。その時、ディックの体がうっすらと淡い青色の光に包まれる。それは何かしらのアーツが発動したことを示す。ディックは振り返り、
「異常なし」
そう告げた。ラグスが取っ手に手を掛け、ゆっくりとドアを開く。明かりが中を照らすと、部屋の中には三匹の紫色をした人型の生物がドア側に背を向けて何かを食べていた。紫色した人型生物の身長はおよそ一メータル程。明かりに気が付き振り返る三匹の人型生物。手には赤錆びたショートソード。
部屋に駆け込むラグスとザグン。
ラグスが淡い光に包まれるとザグンに向かおうとした一匹がラグスに向かってくる。<気迫>スキルのアーツである呼び声が発動した結果である。
ラグスに二匹、ザグンに一匹。ディックとロイも部屋に入る。最後に入ってきたロイがドアを閉める。
ラグスは左右から攻撃してくる人型生物の攻撃を太い棍棒でぎりぎり捌く。
ザグンに行った一匹が「キャケーー」という掛け声とともに袈裟懸けにショートソードを振る。ザグンは太い棍棒をショートソードに逆袈裟に打ち付け、太い棍棒に食い込ませる。そのまま振り切る。耐え切れなかったのか人型生物がショートソードを手放す。ショートソードを食い込ませたまま、振り返しで人型生物の頭を殴る。ボグゥという音をさせながら脳漿とどす黒い体液をぶちまける生物。ザグンがラグスを見やる。
ラグスは、左から再度袈裟懸けに攻撃してきた生物を回避した。そのタイミングで右側の生物が攻撃してきた。それに気づいたラグスは太い棍棒で受けようとするが間に合わず右腕を斬られる。口を赤い血で染め愉悦の表情を浮かべる右側の生物。
その時、ロイの体が淡い光で複数回明滅する。その瞬間、愉悦の表情を浮かべた生物にこぶし大の石が飛ぶ。その石はパキャッと小気味いい音を立て、生物の頭のあった場所を通過。壁に当たり地面に落ちる石。頭に穴の開いた生物は、そこからどす黒い体液をまき散らす。それをチラッと見たラグスは左側にいる生物に向き直る。
もう一度攻撃しようと生物がショートソードを掲げたところ、背中をザグンに殴られる。なにかが太いものが折れる音させながら生物は太い棍棒を構えたラグスに飛び立つ。ラグスは飛んでくる生物を避けるとそのまま顔面からスライディングしていく。スライディングする生物を見送りながらラグスは斬られた腕を抑える。
「まさか、紫色した人型生物如きにダメージ喰らうなんて……情けない」
「仕方なかろう。レベルが戻されたのだ。下位|ゴブリンといえど脅威には違いない」
そうザグンに諭されるラグス。嫌々といった態で頭を数回振る。その頃には下位ゴブリンの体は消え、残されたのはザグンの棍棒に食い込んだものと地面に転がる二本の赤錆びたショートソード、それと下位ゴブリンの牙であった。
名称:ラグス レベル:1 先天的才能:守り手
スキル:<剣術>(1:0/10)、<盾術>(1:0/10)、<気迫>(1:1/10)、<**>、
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アーツ:<剣術>:スラッシュ、<盾術>:バッシュ、<気迫>:呼び声、
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名称:ザグン レベル:1 先天的才能:怪力
スキル:<鎚術>(1:3/10)、<両手利き>(1:0/10)、<物理耐性>(1:0/10)、<**>、<**>、
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アーツ:<鎚術>:スマッシュ、<両手利き>:同時攻撃、<**>:**、
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名称:ディック レベル:1 先天的才能:弓の名手
スキル:<弓術>(1:0/10)、<探査>(1:2/10)、<開錠>(1:0/10)、<**>、<**>、
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アーツ:<弓術>:ピアッシング、<**>:**、<**>:**、<**>:**、
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名称:ロイ レベル:1 先天的才能:魔法使役者
スキル:<魔法制御>(1:1/10)、<水属性制御>(1:1/10)、<土属性制御>(1:1/10)、
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アーツ:<魔法制御>:射出制御・対象制御・範囲制御、<**>:**、
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