↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
囚人と迷宮と  作者: 灰色の雪
第一章 囚人たちの浅層攻略
33/66

第三十三話 囚人たちの苦闘(1)

 巨大な部屋、そう表現するのが最も的確といえるであろう部屋。ラグス達は時間を掛けてその部屋を一周していた。一辺が五十メータル程もあるその部屋は外周部には特になにもなかったことがラグス達にとっては気がかりであった。何もない闇の中を進むにはちょっとした勇気が必要で、それを育てるためにラグス達一行はここに至る通路で休息を取っていた。

 ディックが新しく買った松明でちぎった肉の保存食をサクスに刺し炙る。肉の焼けた匂いが当たりに漂い、空腹を刺激する。ある程度温まったところで黒パンも炙りだす。今出来る最高の贅沢であるホットサンドを作っているようだ。保存食から熱でとけた油脂がじわりと出てくるのを黒パンで受ける。軽く炙っていた黒パンが温まったようで、ディックが肉を挟みそのままかぶりつく。肉をかじっていたラグスが言う。


「それにしても広い部屋だね、どう攻略するか・・・・・・」

「そうだな。とりあえず部屋の中央にいってみるのどう?」


 ディックが意見を出す。他に特に意見がないようでそれで決定という流れになった。全員食事が終了し、部屋の中央へと向かうために立ち上がる。それぞれ目配せをし歩き始める。

 部屋の中央への歩を進めて五、六メータルほど進んだ頃、ロイの眉が一瞬訝しげに歪む。しかし特になにも口にせず、他のメンバーは気が付かなかった。さらに五メータルほど進むとラグスの歩幅が少し狭くなる。前方の明かり照らすギリギリの部分が、石畳ではないことにラグスが気付いたのだ。前方を警戒するようにラグスから合図が飛ぶ。闇から現れたのは沼であった。光がないせいか白い植物がいたるところに生え、その間からキラキラと松明の明かりを反射させていた。その植物は一メータルほどの不揃いの高さである。その光景を伺うようにラグスたちが見ているとロイが危機を感じたかのように焦り気味にいう。


「魔力濃度が上昇しています!」


 全員が一気に足を止めロイを見る。魔力濃度が上昇すれば魔力酔いが発生する。魔力酔いが発生すると最悪内臓不全により死に至る。魔力濃度が上昇する意味を理解したのか全員が辺りを見回し、数歩下がる。迷宮には時折、魔力だまりと呼ばれる場所が存在する。その原理は未だ解明されていないが、魔力濃度がそこの場所だけ高いのである。

 不意にディックの腰元が明るくなった。魔力を使い切ったのか光りを照らさなくなっていた玉が再度明るくなったようであった。不意に白い植物が揺れる音がした。一瞬で全員が音のしたほうへ向く。

 植物の分け目から三十サンチメータルほどの青色の飛蝗が一匹飛び出てきた。飛蝗の頭に歪な王冠じみた物がついていることにラグスが気付く。


「王冠(クラウン)飛蝗(ローカスト)!」


 王冠飛蝗、昆虫系のモンスターの一種。大抵下位の軍隊飛蝗を数匹引き連れている。主に農作物や家畜に被害を与え、農民からはゴブリンよりも忌避されている一種である。飛蝗系のモンスターに多いが跳躍力に優れ、その跳躍力に任せた体当たりは探索者にも危険視されるほどだ。特に迷宮内の狭い部屋などで遭遇すると立体起動とも呼べる動きを披露することもある。また前衛を飛び越え後衛に直接攻撃することでも有名であり、数の暴力によって後衛が落ちる場合もある。

 ラグスの声を皮切りとしたのか、飛蝗が次々と目の前に跳んで現れる。ラグスたちは厳しい表情で腰を少し落とし迎撃の準備をする。ようやく飛びでてくる飛蝗がいなくなったが、目の前に十五匹にものぼる飛蝗が存在した。

 オークによって穴だらけにされた亀犬の盾を構え、飛蝗にジリジリと近づくラグス。そのやや斜め後方に位置していたザグンが一気呵成に近づき、ツルハシで飛蝗を吹き飛ばす勢いで殴る。飛蝗の顔面にツルハシが埋没し絶命させる。それが合図となって飛蝗が一斉に跳躍を始めた。五匹がザグンへ、四匹と王冠飛蝗がラグスへ、大跳躍をして四匹ほどがディックとロイの間に移動する。


 ザグンへ殺到する五匹全てが移動と同時に体当たりを仕掛けてくる。体勢を崩していたザグンはそれをかわしきれずに食らってしまう。苦鳴をあげ、その鋭い顎で噛み付こうとする飛蝗を振り払う。それによって飛蝗と少し距離をとった。その一瞬で体勢を立て直し飛蝗にゴルフスイングするかのようにツルハシを振り回す。飛蝗の胴体に掠める程度であったが、飛蝗の羽が吹き飛ぶ。そこに合わせたかのような飛蝗の再突撃。二匹の飛蝗が砲弾のようにザグンのわき腹に突き刺さるかのごとく飛ぶ。それを予測していたかのように、打ち上げたツルハシで一匹を叩き落す。ツルハシによって串刺しとなった飛蝗がそのまま絶命する。残り四匹。しかしもう一匹は存命であり、一度得た運動エネルギーを消すことが出来ていない。そのまま筋肉に覆われた厚い胸板で受けるしかなかった。ザグンの顔が盛大に歪み、無理矢理肺の中の空気が圧縮され、口から吐き出される。胸板で受けた飛蝗が噛み付こうとするのを剥ぎ取り投げ捨てた。

 他の飛蝗はザグンを伺うように少し距離をとっていた。


 数の暴力、それは迷宮内では恐怖の対象であった。

戦闘回が暫く続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。