第二話 囚人の掟
台詞の微調整しました(2013/3/3)
「おい、新入りども」
衛兵を見ていた囚人たちに小声で声をかける者がいた。囚人たちは声がするほうをみると、藁の上に胡坐をかき手招きをしている。新たに収監された囚人たちは、手招きをしている者に近づく。ニンマリとしか表現できない笑みを浮かべた声をかけたものが口を開く。
「俺は情報屋のバッツってんだ。よろしくな」
左端にいた囚人を見ながら体格を褒め、名前を聞いてくる。
「俺は……ラグス」
「ラグスか、いい名前じゃねぇか。そんなガタイしてるんだ。戦士かなにかやってたのかい」
「ああ、まぁそんなものさ」
バッツは、ふむふむといった感じで頭を上下に振りながらラグスの隣にいる囚人をチラリと見やる。その囚人は眼光が鋭く、細身でしなやかな筋肉をしているように見えた。
「あんちゃんは、なんか“はしっこそう”な感じだな。なんて名前なんだい」
「ディック」
そうぶっきらぼうに言い放つともう言うことはないといった態を取る。これにもバッツは頷きを返しながら、ディックの隣、2メータル近い高身長で肩のあたりの筋肉が盛り上がっている囚人を見る。
「あんちゃんも良いガタイしてんなぁ。やっぱり戦士かい? そんだけのガタイしてんだ一端の名が売れてたんじゃねぇか」
「ザグンだ」
「ザグンっていや、ロズル伯爵のとこの、あの“双鎚”かよ。おでれぇたな、こいつぁ」
バッツは額に手を当て大きく目を開く。そのまま、ザグンを上から下まで眺める。
「なんでまたこんなとこに……まぁそいつはいいか」
バッツは最後の囚人をみる。
「あんちゃんは?」
「ロイです」
バッツに陰鬱な表情で視線を合わせず、特に印象の残らない風体をしたロイは名を語る。名前を聞いたバッツは口の右端をかすかに持ち上げるが、すぐに戻し、四人を改めて見る。
「自己紹介が終わったところで、だ。おめぇら、死にたくねぇだろ?」
当たり前のことを聞くなといった態を四人がとる。
「ここにはシャバと同じで掟があるんだわ。そいつを知ってなきゃやべぇぞ。知りたくねぇか」
「ルールならさっき聞いたけど……」
ラグスはそう反論するが、バッツは人差し指を立て左右に振る。
「そいつぁ、囚人迷宮のルールだろ。俺が言いてぇのは、囚人の掟だよ」
そういって四人を見回し、手のひらを上にあげて前に出す。
「いろいろ知りてぇなら、新入り用の情報料、コイン一枚だ」
「なっ、金を取るの!?」
ラグスが驚いた様子で目を見開く。
「あったりめぇだろ。シャバでもどこでも情報は大事だろ。大事なもんを貰うには金がかかるって寸法よ」
バッツは再度四人を見ていると、ディックが手に持った小袋の中を見て一枚取り出し、バッツの差し出された手の上に置く。そのコインは親指と人差し指の先端を合わせた程度の大きさの木で出来ており、外縁を鉄で縁取りしたものであった。
「毎度あり~、他はどうすんだい?」
バッツがそういうと他の三人もしぶしぶといった態で、バッツの手のひらにコインを置いていく。バッツは、手のひらに置かれた四つのコインを自分の小袋にいれると、ニンマリと笑い、
「毎度あり! いやぁ、話が分かるやつぁいいねぇ。そんなお前らには追加でいろいろ教えてやるさ。んでだ、まず掟から話していこうか。ここじゃあ、力関係がはっきりしてんだよ。そいつはな、どの階層まで到達してるかによって決まる。今もっとも深く潜ってるのが、バザル、シド、モギャ、エツンの四人だ。こいつらがここじゃ王様よ。ぜってぇ手ぇ出すんじゃねぇぞ。到達階層は十三階だ。
こいつらの寝床は一番右側。ん? なんで右側かって? そりゃ左側には便所があるからだよ。いやぁ左端が寝床だと最悪だぜ、くせぇしのなんのって……。まぁおめぇらは新入りだから、どうしてもそこから始まるがな。まぁまぁ、落ち着け。到達階層が深くなりゃすぐおさらばだ。おめぇらの一つ前に入ってきた奴らの到達階層は三階だから、がんばりゃすぐ越せるだろ。まぁそいつらも頑張ってるみてぇだから、気合入れる必要があるがよ」
バッツはガハハと笑い声をあげ、さらに続ける。
「まず、この到達階層での力関係が一つ、もう一つ、こっちのほうがおめぇらには大事かもな。そいつはな、」
そこまで話が進んだ時、広場の奥のほうが騒がしくなった。五人全員がそちらを向く。しばらくして一人の囚人が、バッツに近づき何事かを耳元でささやく。
「ありゃ……、そうかい。ありがとよ」
バッツがそういうと、ささやいていた囚人が離れていく。それを軽く見送ってバッツが四人に向き直る。
「どうやら死人が出たみてぇだな。ちょうどさっき話してたおめぇらの一つ前に入ってきた奴らの一人みてぇだ。まぁ、そんなこたぁどうでもいい。話続けるぞ。
もう一つの掟ってのがな、囚人が輸送されるときゃ、大体四人まとめてだ。この四人以外では、パーティを組んじゃいけねぇってことになってる。
ん? なんでかって? そりゃおめぇ、有望な奴を引き抜いて強いパーティつくっちまったら、その有望じゃない奴らが困るだろ。そこは公平にやろうやって話さ。同期の中で四人一組になろうが、二対二に分かれようがなにしようが自由だけどよ。迷宮は一人で潜れるほどあまかぁねぇ。
ただ、特例がある。そいつは、同期のやつらが死んじまってパーティメンバーが二人以下になった場合は、どこか三人以下のパーティに入れるってやつだ。しかしだ、当たり前だが、パーティは四人以上は組めねぇからな。その前提があっての特例だ」
右手の人差し指を立てながら説明を終えたバッツは、満足気に言った。
「とまぁ、ここの掟はこの二つだ。頭にたたきこんどけよ」